171 おれに普通を語るのは虚しいだけだぞ
アルが書類を持ってトルタハーダ商会に行くと、中堅といった感じの建物で買い物客と間違えられて店員に歓待されてしまった。
ポーションや雑貨や衣類、家具全般を扱ってるので、冒険者はお得意様なのだろう。
冒険者ギルドに行く前にアルも冒険者装備に変えている。
暑いのでブーツではなく革靴だが、安全靴仕様だ。上等な装備というのは店員にも分かったのだろう。
「いや、客じゃなくて護衛依頼を受けて。会頭を呼んで欲しい」
アルが誤解を解いて書類を見せてそう伝えても、歓待された…。
会頭の我儘のせいで護衛が決まらず、余程、困っていたらしい。
会頭のカルマンは本当に見事な赤毛だった。三十前後ぐらいか。
王都でこれだけの規模の商会をやれるのだから、親から受け継いだとしてもやり手なのだろう。冒険者をやっていてもおかしくない程、筋骨隆々で大柄だった。身長は190cm近い感じだ。
「おおっ、お前が護衛か!…って、冒険者やる必要があるのか?かなり上等な服と装備だが」
「趣味みたいなもんで」
アルは書類とギルドカードを見せる。
「Cランクぅ?面倒がってランクアップしてないだけだろ。よくこんな依頼料で来てくれたな」
「書類をよく見てくれ。乗用魔道具を使って送るから一時間程度だ。今から作るから隣町に行く人たちを集めて…」
「…ちょっと待て。今から作る?」
「こっちも急に頼まれたんだよ。乗り込む荷台部分だけだから、大した時間はかからねぇ。カルマンさんのような体格の人がいるんなら、どうせ改造は必要になっただろうしな」
「木工のスキル持ちか」
「錬金術」
「…おい、何で冒険者やってる?」
「だから、趣味みたいなもんだって。黙っといてトラブルになるのも何だから教えるけど、先日の『こおりやさん』の店長はおれだ。少し広い場所に案内してくれ」
「…何かもう色々ツッコミを入れるのも疲れて来たな…」
そう言いながらも、カルマンは
アルは【チェンジ】でかき氷の自動販売魔道具を出す。
「…本当にあの『こおりやさん』なのか…買っても?」
「いいけど、営業許可を取ってねぇから店員までな。客はダメ」
不特定多数はキリがなくなるので困るワケだ。
隣町の行くメンバーが集まって来たので、アルは材料を出して荷台製作に取りかかった。
まずはシートからだ。
暑いので
普通の椅子と違うのはシートベルト付きな所だ。
スライム皮で伸縮性を持たせフィット感アップ。
五人なので前二人、後ろ三人の二列に並べ、荷馬車のような箱を木材で作るが車輪はなし。浮遊型だ。
魔力はバイクの方から引っ張るので、バイクを出し、魔法陣で繋げ、物理的にもワイヤーでバイクと繋げる。
風除けも必要か、と研究中のポータブル結界魔道具も付けて、荷台全体を覆う。
実用化には程遠いぐらい魔力を食うが、アルなら問題ない。ついでに断熱と冷風と防音も付与してやる。叫び声で魔物を引き寄せ兼ねないので。
一通り作業が終わった所で魔力を通すと、ちゃんと計算どおりに30cm浮いた。
あまり低いと凸凹や岩にひっかかるし、高いと乗り込み難いし魔力も食う。
結界を解除してシートに座り、乗り心地と冷え具合も確認したが、冷え過ぎず、そこそこでいいだろう。
「よし、乗り込んでみてくれ。不具合があれば直す…って揃ってアホヅラしてるし」
片手にかき氷、片手にストロースプーンで口を開けっ放し。それが十数人ほぼ全員、となると。
「…いや、こんなに速く作れるもんじゃないだろうが。普通は」
「おれに普通を語るのは虚しいだけだぞ。ほら、カルマンさんは前な」
さっさと促して五人をシートに座らせ、シートベルトもしてもらう。食べかけでも片手でオッケイな留め具だ。
五人乗っても浮遊位置はちゃんとキープ。重さで沈んだりはしない。
中庭内をぐるっと回ってみても、荷台はさほど振り回されず大丈夫そうなので、かき氷を食べ終わった後、出かける準備と荷物を用意してもらい、荷物はアルのマジックバッグに詰め込んだ。
トルタハーダ商会は馬車を使う許可を得ていたが、アルの作った荷台は馬車ではないので、門まではぞろぞろと歩いて行く。
検問を通ってから【チェンジ】で荷台を繋いだバイクを出し、乗り込んだ。門番はぎょっとしていたが、今更も今更だった。
アルは投影マップで隣町のアステールの街の位置を確認。
全員、シートベルトをしたのを確認してから、ゆっくりとスタートした。
「速過ぎてダメだと思ったら、すぐ言えよ。なら、スピード落として休憩増やすし」
「分かった」
「分かりました!」
「ワクワクする~」
最初は人見知りしていたフェイだが、子供特有の切り替えの早さと好奇心でこの状況を楽しんでいた。
ちなみに、フェイは赤みが強い茶髪といった程度で、カルマンの緋色程、目立たなかった。
ワクワクされると蛇行したくなるアルだが、依頼はちゃんと遂行しよう。
終わった後なら、遊んでやってもいい。
馬車と違ってまったく揺れず、風の抵抗もないからか、馬車の五倍ぐらいのスピードを出しても五人とも平気だった。
徒歩は4、5km、馬車は6、7kmなので馬車が遅いのだが、それ以上速いとすぐ馬が潰れてしまうからだ。
緊急時には全力で60、70kmは出るそうだが、ほんの五分程度。生き物なのだからそれはそうだろう。
魔力は使うが、休憩はいらないバイクの場合だと、もっとスピードを上げても問題ないので、50kmで走ってみても全員大丈夫だった。
変な振動がなく快適な乗り心地なのも理由だろう。
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