第12章・自動販売魔道具
158 自動化して数を作ってやろう!
五日間、シヴァはホワイトタイガーを探して回ったが、まったく手がかりすら見付からなかった。
後半三日間はイディオスも一緒だったにも関わらず、だ。
カルメ国の北の山々を重点的に探していたワケだが、小さなダンジョンがたくさんあるおかげで魔力も薄くなっているため、これはもう他の土地に行った、他の土地へ行けと神託が下った、と考えるべきかもしれない。
眠りについてるのなら、同じ神獣には分かるそうなので、それもない。
こうなると、小さなダンジョンがたくさんあるのは偶然ではなく、神獣の負担を軽減すべく誰かが考えたか、別の思惑なのか、神の采配なのかもしれない。
…ということで、ホワイトタイガー探しは打ち切ることにした。
そして、この五日間の移動の暇な時間で、シヴァはキーコと他のコアたちも一緒に開発していた。
自動かき氷販売魔道具、自動冷水販売魔道具を!
店を構えて客が集中するからこそ、行列が出来、近隣に迷惑をかけてしまうワケで、それならいっそ、数を作れば?
しかし、人間はアルだけ。食べられる氷を作れるのもアルとコアバタたちだけ。
ならば、自動化して数を作ってやろう!…という発想だった。
盗難防止は地面に突き刺した杭と結界。
お金投入口とボタンと取出し口だけは結界外になるよう、高等技術を使っている。
氷を作る魔道具だと時間がかかり過ぎるので、時間停止のマジックバッグにあらかじめたっぷりと氷を入れ、なくなりそうになったら連絡が来る仕様。お金の貯蔵もマジックバッグだ。
ここでようやく、アルが死蔵していたマジックバッグが有効活用出来た。まぁ、それだけでは足りなかったので、新しい物も作ったが。
冷水の方は水道や風呂と同じく、水属性の魔石で水を出し、荒く砕いた氷を入れる。この砕く魔道具も新しく作った。あまり細かくてもすぐ溶けてしまうし、大きくても飲み難いので。
前回同様、容器は全部紙カップにして使い捨てにした。回収出来た物は溶かして再利用する。
日本のようにストロースプーンを一本ずつ取って行く方式だと、絶対、全部盗まれるので、どうやって付けるのかが問題になり、結局、腕だけゴーレムとなった。
ゴーレムの手の中にストロースプーンが内蔵されており、一本ずつ出して出来上がったかき氷に刺す、というものだ。中々シュールだが、内部なので客からは見えない。
…というワケで、ラーヤナ国王都フォボス。その商業ギルドにアルは再び来た。
前に担当してもらったセドロを呼んでもらうと、大歓迎され、すぐに応接室へ通された。
「アル様、探していたんですよ!色んな所からまたやって欲しいとせっつかれてまして。今回も『こおりやさん』の話だと思ってもよろしいですか?」
「ああ。前とは販売形式を変えてみた。店舗は構えず、店先でも宿屋の前でもここの前でも何もない通りでも、どこでも設置出来るよう自動販売魔道具にしてみた。これだ!」
【チェンジ】でアルはパステルカラーで着色され、『こおりやさん』三毛猫にゃーこのロゴマークも入った自動販売魔道具二つを床に出した。
かき氷の方は白に赤、黄、緑の着色、冷水の方は地色が水色で分かり易く。
どちらも大きさは高さ160cm×横幅40cm×奥行き40cm。取出し口は大人の腰より上。
かき氷の方は赤、黄、緑のかき氷のイラストの入ったボタンが三つ付いていて、お金を入れるとボタンが光り、どれかボタンを押すと、ガラス窓からかき氷が削られている所が見え、シロップがかかり、ストロースプーンを刺した所で、取出し口の窓が自動で開き、トレーに載ったかき氷が前に出て来る、といった仕様になっていた。
トレーは外れないので持って行かれる心配はない。
早速、セドロに使わせてみると、大興奮だった。
「これはすごい魔道具ですね!この仕組みを登録して下されば、アル様にもお金が入りますし、無人販売技術の発展にも…」
「無理。いまだに解明されてねぇ超技術が使われてるのは分かるだろ?採算も度外視してるけど、レア素材も山程使ってるんだよ。おかげで防犯対策も万全だけどな」
「万全とは言っても、そんなに硬そうな素材には見えませんが…」
「ドラゴンブレスにも耐えられる」
「…試したんですかっ?」
「そんな強度だって話」
本当は試した。何かもうコアたちもノリノリで。
自動販売魔道具は危険を察知すると、通常は結界で覆われていない部分も結界が覆う。取り出し口に手を突っ込んだ場合、結界ですっぱりと切れることになる。
「それに1つだけを設置するワケじゃねぇ。どちらも50台ずつ、用意した」
「…はいぃっ?」
「前回の反省を元に、数を増やし、それぞれバラけて設置すれば、大行列にはならねぇし、買える人も増えるだろ。かき氷と冷水の自動販売魔道具もバラバラ、1台ずつで設置する。…ということで、セドロさんに訊きたいのは、この場合の場所代。店先でもいいんだからその店の許可があればいいってこと?」
「あーはい。基本はそうなりますが、こちらに問い合わせが来る関係上、商業ギルドにも手数料を頂くことに…」
「じゃ、物納でよろしく!『飛竜の槍』で」
結局、キエンの街のトリノにオークションに出してもらおう、と思っていて忘れていたワケで。
アルが喜んで飛竜の槍を出すと、セドロは頭を抱えた。
「…もらい過ぎですよ…」
「じゃ、買取ってそこから手数料引いて、おれの口座に入れといて」
「あの、手数料は1台銀貨1枚で100台なら金貨10枚でいいので、槍は普通にオークションにかけられてはいかがでしょうか」
「面倒臭いんだって。知っての通り、金には困ってねぇし。適当な値段で買取って」
「それでよろしいのでしたら、査定に出して来ます」
セドロは飛竜の槍を丁重に持って、一旦、席を外したが、すぐに戻って来た。
「アル様、『飛竜の槍』だとおっしゃいましたよね?」
「ああ」
「思った以上のかなりのレアドロップでしたよ!これを適当な値段で買取るなんてとんでもない、と査定担当が…あ…」
「お客様!お手間は取らせませんので、是非、オークションに出しましょう!レアドロップ過ぎてここ十数年も出てなかった『飛竜の槍』を適当な値段でなんてとても買取れません!」
査定担当が押しかけて来た。意外と若い女性だったが、耳が尖っている所からして、長寿のハーフエルフか。
「…え?そんなにレアなんだ」
称号持つ前にドロップした飛竜の槍なのだが、幸運値が元々Bなので確率が高いのか。
「はい!ダンジョンのワイバーンを討伐した時に、稀にドロップする『飛竜の槍』です。よろしければ、どう手に入れたか、教えて下さいませんか」
「その通り、ワイバーンを討伐しただけだって。…ああ、ソロで」
「ソロでっ!」
「ワイバーンをソロでっ?」
「まぁ、それは置いといて。自動販売魔道具の設置場所は、こっちで勝手に交渉していいの?」
「ちょっと待って下さい!置いとかないで!」
「あー…アル様ですしね。ええっと、交渉はアル様にやって頂いた方が早く決まると思います。設置場所についてはこちらにも後で教えて下さい」
査定担当は慌てていたが、少しは慣れているセドロは話を進めて来た。
「分かった。じゃ、設置次第営業ってことで今日から営業許可をくれるか?」
「かしこまりました。書類を作りますので少しお待ち下さい」
「よろしく」
セドロは部屋を出て行き、査定担当の女性を置いて行った。
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*大感謝SS「番外編07 あの時の裏事情―ダンside―」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659248555612
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