159 自販は値段なんか付けられねぇ

「これ、何ですか?」


 査定担当なだけに自動販売魔道具に興味津々だった。


「商売道具。この絵の通り、銅貨2枚を投入口に入れるとかき氷が出て来て食べられる。隣は冷水。同じく銅貨2枚」


「…え?自動ってことですか?」


「そう」


「な、ななん、何ですかっ、それっ!ものすごく画期的な大発明じゃないですかっ!」


「発明?…まぁ、そうなるか」


 アイディアは異世界にある物だが、電気がないため、中身は魔道具、ゴーレム製だ。

 …いや、一応、アルは電気の作り方は知っているし、簡単な基盤の作り方も知っている。細かい細工は錬金術で何とかなりそうだ。

 しかし、バッテリーを作るのに必要な硫酸をどう手に入れたらいいのか、で。

 コアたちすら知らないそうだし。レモン電池や活性炭電池ではパワーが足りないし、果物を使うのは持続に難がある。


「仕組みを登録するべきですよ!うはうはに稼げますよ!」


 うはうは?


「無理だっつーの。さっきセドロさんにも薦められたけど、おれ以外には作れねぇし、そもそも素材からして集められねぇと思う。レア素材と高ランク魔石を使いまくってるんで。採算は度外視してるからな」


「……えーと、お客様は冒険者だと窺っておりましたが…」


「錬金術師でもあるワケで。物作りは趣味と実益」


「………そ、そうですか…」


「『飛竜の槍』は面倒臭いことをやってくれるんなら、オークションに出してもいい。けど、おれの情報は伏せといてくれ。我ながら利用価値あり過ぎなんで」


「あ、はい。かしこまりました。…ちなみに、こちらの魔道具は売るとしたらどれぐらいで?」


「売らねぇから訊く意味がねぇな。盗難防止にドラゴンブレスにも耐えられる強固な防御力だ。値段なんか付けられねぇだろ」


「…そうですね」


 商品を買わないようなので、アルは自動販売魔道具2台は【チェンジ】でしまっておいた。

 一体、何が?とばかりに呆然としている査定担当をよそに、セドロが戻って来たので手続きをした。

 まずは一日。大騒ぎになったら引き上げる。

 そうじゃなく順調に販売出来るようなら、長い期間を考えている。

 手数料は口座から引き落としで。全然引き出してないので、先日の売上が丸ごと残っている。


「で、ここ商業ギルドのロビーに1台ずつ、置いていい?」


「それは是非とも!手数料を頂きますので、場所代はいりません」

 

 では、早速、とアルとセドロはロビーへと場所を移した。

 呆然としていた査定担当も慌てついて来る。

 列が出来てもあまり邪魔にならない所、ということで、入ってすぐの所に自動販売魔道具2台を設置することになった。行列は外に並ぶことになる。


「床は撤去する時にちゃんと直すから」


 床は石畳になっているので、そう断ってから自動販売魔道具を出す。

 ガコッ!

 その底の杭を床に打ち込む。返しが付いているので容易に引き抜けない。

 自動販売魔道具自体はマジックバッグを使ってあるだけに軽いので、そういった措置にしたのだ。土や鉄を入れるより簡単なこともあって。

 抜く時は返しを引っ込めてから抜く。この操作はアルとコアバタたちしか出来ない。


「な、何の音ですか?」


「杭を打ち込んだ音。無理矢理引き抜くことは出来ねぇし、この周囲ごと運ぼうとすると…まぁ、後悔することになるな」


 コアたちに通報が行き、その時、空いてるコアの分身バタが転移して駆け付け、捕らえることになっている。

 「生かしてあって情報が引き出せるようにしてあれば、後は好きにやれ」と言ってあるので、かなり怖い目に遭うことだろう。

 コア総出の試みだ。思い入れがあるに決まっている。アルも、だ。

 回収ボックスを設置して完成。


「もう買えるんで、どうぞ」


 アルが促すと、興味津々で見ていた人たちが、我先にと自動販売魔道具…自販の前に来る。


「これってこの前の食べる氷を売ってた店と同じマークだけど、あの氷が出て来るってこと?」


 商業ギルドにいる人だけあって、先日の時も来ていたらしい。まぁ、『こおりやさん』店舗も商業ギルドの側だった。


「そう。今回は三種類だけ」


「こっちは冷水か。いいな、それも」


 わいわいと買い出し、サクサクと列が進む。

 自動かき氷器が削るのも速いが、進捗が見える所もよく、少しの待ち時間も苦にならないようだ。冷水の方も氷を削ってる所が見える。

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