160 土下座は免罪符じゃねぇぞ

 では、外に営業に行こう、とアルは早速、エプロンとサンバイザーを着けてから、先日、店舗を作った店の隣に向かった。

 一番迷惑をかけたし、店にも来ていたそうなので。


 話をして実演して見せると、大乗り気だったので、店先に設置した。かき氷自販の方だ。

 冷水自販は果物屋や飲食店だと、応用が出来る。

 冷水に果物を絞れば冷たい果実水になるからだ。

 自販の側で果物を販売してもいいし、店側で冷水を購入し、果実水を作って売ってもいい。それはお店にお任せだ。


 氷だけが欲しい、という店もあったので、それはアルが調整して店の奥に設置した。同じ値段で一々小銭が必要だ。

 それでも、食べられる氷を出せる魔法使いが少ないそうなので、かなり重宝がられた。


 場所代は一日金貨1枚までなら払おうと思っていたのだが、「このスペースだけでもらえない、一杯サービスしてもらったからそれでいい」という所ばかりだった。

 氷だけ欲しがった店は店の方が払う、と言われてしまったぐらいだ。もらってないが。


 そうして、地図に書き込みながら(コアの方で把握はしているが)営業して回ったが、大半好意的で順調だった。

 まだまだ暑い日が続くので、冷たいものに飢えているからだろう。「あの店なら」「あそこなら」と口コミで情報をもらい、そちらへ行くので順調ということもあった。


 少数に話すら聞いてくれない『セールスお断り』な人と場所代を釣り上げようとするどころか、アルから自販を奪おうとする輩がいた。

 『とんでもないお宝』なのは確かだが、短絡過ぎることに。腕を折って防壁の外へと影転移させてやった。


 アルの見た目は十人並み、爽やか?らしく、身体はガリガリ手前の細身、というのもあるのだろう。

 つまり、強そうに見えない。しかも、今日はまったくの装備なし。舐められて当然かもしれない。


 しかし、いくら冒険者が本業でも武器を装備している相手に営業されても、脅されてるように感じると思うのだ。

 まぁ、絡んで来るのは弱い奴らばかりだから、適当にあしらえばいい。


【マスター、キーコバタです。どこも順調に可動していて、並ぶ人の列もそう長くありません】


 キーコバタがそう通信バングルで報告して来た。


『それはよかった』


 アルも念話で返す。


【あ、四杯以上も一人で買っている人がいますが、よろしいんでしょうか?】


 そんな風にまとめ買いをする奴が、他の人のために買っている、とは考えられないので、高い金額で転売しようとしているのか。

 時間停止のマジックバッグがあるならさっさとしまうだろうし、キーコが気付くということはそのままだ。溶けるのにどうするんだ、とは考えてないんだろう。


『あまりに占領しているようなら注意してくれ。自販から声が聞こえるっぽく念話で』


【かしこまりました】


 さて、営業営業、とアルは人の多い所、冒険者ギルドの前、学校の前、工場こうばの前にも設置した。是非とも!でやはり、場所代はいらないらしい。


 人の多い所には二台共置いてることもあり、かき氷、冷水、どちらも20台は設置した所で、最初の強盗が発生した。お昼前のことである。


 自販は持ち上がらず、自販と地面の間に剣を差し込んでもまったくビクともしない。自販の下の方を切り付けても傷一つ付かず、土魔法で地面ごと持ち去ろう、とした所で、何故か痺れて動けなくなった冒険者らしき男たち三人。

 場所は冒険者ギルド前の自販じゃなく、市場の一角の自販だ。

 その様子はフォーコバタが報告して来た。


『誰かに頼まれた風でもねぇな。フォーコバタが連れて行って好きにしていいぞ。地面を戻してからな』


【有難うございます!】


 フォーコバタはフォボス、この王都のダンジョンのコアの分身体だ。魔力も問題ないだろう。他の遠征に来ているコアバタたちだと、魔力的にそうは行かないが。


 さて、もう少し頑張るか、と営業して設置した直後、息を弾ませた三十前後の男が走って来て土下座した。


「どうかその魔道具を売ってくれ!いい値を出す!」


「無理。金で買えるもんじゃねぇよ」


 こんなことを言い出す奴がそろそろ出ると思っていた。

 普通に考えて、氷を作る魔道具は時間がかかるので、すぐさまたくさんの氷を提供出来る、となると時間停止のマジックバッグかそれに類する物を使っているとしか思えず、それが正解なのだから。


 市販されている人工の時間停止のマジックバッグは、かなり容量が少なく、出回る数も少ない。ダンジョン産のマジックバッグはそこそこ容量が多いが、時間停止の物は滅多に出ない。


「そこを何とか!何台も設置しているのだから一台ぐらいはいいだろう?」


「ダメ。この一台で国家予算十年分でもまだ素材代にすらならねぇんだけど、払えんの?レア素材高ランク魔石をふんだんに使ってあるんでな」


「…そんな高い素材や魔石、どっから…」


「おれだけで動いてるワケじゃねぇってこった」


 アルはそんな思わせぶりなことを言ってみる。それも嘘じゃない。コアたちも一緒なのだから。


「だいたい、かつてなく画期的って商業ギルドもお墨付きなこの自動販売魔道具。おれだけでこんなに多くの台数を作るのは無理だと思わねぇ?…既に強盗が出てるけど、そいつら何故か消えたそうだぞ」


 アルがそう教えてやると、男は固まった。

 いかに危ないことを言ってるのか、ようやく分かったらしい。


「ちなみに、おれをどうにかするのはもっと無理。こう見えてソロでドラゴンぐらいは倒せる冒険者なんで」


 信じなくてもいいし、大口叩いてると思ってもいいので、事実を教えてみた。

 店の人はずっといたワケだが、今の話を全部まったく本気にしておらず、「あはははは」と笑ったままだった。

 さてさて、次、と男は放ったまま、アルは次の設置場所へ向かった。

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