161 ツッコミ待ちかっ!
昼食後、しばらくしてから、パーコバタから連絡が入る。
【マスター、パーコバタです。貴族の執事みたいな人が『氷の魔道具を設置してる責任者に会わせろ』と商業ギルドで騒いでます】
クレームが来るのは商業ギルド、とパーコバタに見張らせてあったのだ。
『何が目的か聞いておいて』
【分かりました。…マスターに会いたい目的は、『商売下手だから指南してやろうと思って』だそうです】
『タカリだな。あまりにうるさいようなら、パラライズでも撃ち込んでやって』
麻痺魔法だ。
【かしこまりました!】
…パーコバタが何やら張り切っている。ま、いっか。
隣国からの遠征コアバタには、あらかじめ魔力を注いでいるので、パラライズ程度の魔法は問題ない。
だいたい30台ずつ設置した所で、もうすぐ三時。
アルは休憩することにした。
一番暑い時間帯なので、その辺の木陰に籐風のアジアンチェアとサイドテーブルを置いて。飲み物はアイスコーヒー。
お茶菓子はアイスクリーム。途中からアイスコーヒーフロートに。
「お兄ちゃん、何かおいしそうなの食べてるね」
七、八歳の男の子が寄って来て、そんなことを言う。
「うん」
「つめたいの?」
「そう。…その年で子供のフリって恥ずかしくねぇ?宮廷魔法使いさん」
宮廷魔法使いは【変幻自在の指輪】程ではないが、そういった外見を見せかけるマジックアイテムの腕輪を装備していた。
【状態異常耐性】があるアルにはまったく利かないマジックアイテムだが、切ることも出来るので子供のフリをしたのが分かったワケだ。
ステータスを見れば『マジックアイテムで外見偽り中』とまで出ていて更に一目瞭然。
そうじゃなくても、この年頃の子供が一人で出歩くのは不自然だった。街中でも小さな魔物が出ることもあるし、人さらいも出るのに。
「一目で分かるとか、どんなんなの、君」
「騙したいのなら、ちゃんとそれっぽく振る舞えよ。知らねぇ人にさっさと近寄り過ぎ。見せかけの意味がねぇ程、歩幅もでかいし、足音も大きい」
怪しいと思う理由が多過ぎた。
もし、ステータスが見えなかったとしても、呼吸音も衣ずれの音も子供だとは到底思えない程大きい。そもそも、見せかけだけなので、口の位置、心臓の位置が高いのだ。声もマジックアイテムで子供の声に変えていたが、元々耳のいいアルには雑音混じりに聞こえて不自然過ぎだった。
ど素人かっ!ツッコミ待ちかっ!と言いたくなった程。
「あーそこからか。失敗したな」
宮廷魔法使いはさっさと見せかけも変声も解除して、大人の姿になった。三十四歳だ。ウエストポーチ型マジックバッグから木の椅子を出して座る。アルのテーブルを挟んだ形だ。
「自動販売魔道具は売らねぇ、献上もしねぇ、仕組みも教えねぇ」
だいたい、こんな所だろう、とアルは先に言っておく。
「じゃ、王宮内に設置して欲しいというのは?」
「いいけど、バラそうとすると怖い目に遭うぞ。既に強盗がどこかに消えたそうだし」
「やっぱり強盗が出てるのか。嘆かわしい限りだな。最初からリスクが高いのが分かっていて、何故、こんなに魔道具を設置してるんだ?魔法で内部を見通せないようきっちりと隠蔽まで施して」
魔法対策も万全だった。
見ても分からないだろうし、鑑定しても仕組みまでは詳しく出ないだろうが、念のため。
「娯楽と同情。暑いと冷たいものが食べたくなるだろ。でも、氷魔法使いでも食べられる氷は結構難しいっぽい。じゃあ、ってだけ。おれにはこういった物を作れる力も協力してくれる奴らもいるし、資金も問題ねぇし」
「……えーと、冒険者だって聞いたけど、活動しなくていいのかい?」
「してるって。どっから素材と資金が出てると思うんだよ。国またいでるからあまり活動してねぇように見えるかもしれねぇけどさ」
最近、アルでは冒険者活動はしてなかったが。
フォボスダンジョンが最後かもしれない。店舗での『こおりやさん』をやるより前だ。
「本当に娯楽と同情で?君のメリットがあまりないような気がするんだけど。安過ぎだし、あんなに高性能な魔道具だと採算取れなさそうだし」
「娯楽ってのはメリットじゃねぇ?深読みし過ぎだって。他国の戦略で油断させといて、とかねぇから。だいたい、それだったら安売りしねぇし、技術を見せ付けるようなもんを出すワケがねぇだろ。目立ってしょうがねぇし」
「まぁ、そうなんだけど、一応ね。それで、アル君、話せば話す程、君の賢さを思い知るんだけど、どこかで軍師やってたりする?」
さり気なく名前も把握してますよ、アピールか。
隠してないし、営業でも最初に名乗っているのだから、知るのは容易い。
「まさか。元々賢いだけだって」
「謙遜はしないんだ」
「その方がイヤミだからな。…で、王宮に自動販売魔道具を設置して欲しいってのは、本気?他国の武器や諜報に使う何かかも、とか疑っていても」
「出来れば設置して欲しい。お偉い方も興味津々なんだよ。バラそうとして怖い目に遭うのは確実だろうね。…あ、いい気味かも」
「あんた、中間管理職か」
気苦労が多い感じだ。上がうるさいけど、部下に来させたらヤバイかも、と自分で来たのだろう。
「ほんっと賢いね。お偉い方が何だかんだと君にも色々と訊いて来るだろうけど、お手柔らかに頼むよ」
「答える義務はねぇな」
「不敬罪で連行されるかもよ?」
「おれを?…面白い。やってみて欲しいな」
【快適生活の追求者】称号がどれだけ働いてくれるかの検証も兼ねて。権力者や利用する者を遠ざける、とはどのぐらいなのか。『なるべく』の範囲はどのぐらいなのか。
ほぼ「おつかい」のこの宮廷魔法使いは『なるべく』の範囲らしいが、他はどうなのか。
アルが楽しくなって思わず笑うと、宮廷魔法使いは寒気がしたらしく、自分の腕をさすった。
「アル君、君ってものすごーく強いよね?」
「さぁな」
「何でまだCランクなの?って何度も言われるぐらいには、強いよね?隣国のギルマスからAランクへの推薦も出てるそうだし」
「買いかぶられてるだけだって」
「そうは思えないな。ウチの騎士団なんてビビって動けないんじゃないかと思うんだけど」
「へぇ」
それが本当ならランニングバードの方が勇ましい。
アルはアイスコーヒーフロートを飲み終わると、クリーンをかけて【チェンジ】でしまい、続いてアジアンチェアセットも同じく【チェンジ】でしまった。
そういえば、【チェンジ】でしまうと、自動的にクリーンがかかるんだっけ、と思い出したが、まぁ、いい。
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