162 血はないハズだが、血の気が多い
「で、案内してくれる?宮廷魔法使いさん」
「シグマだ」
「宮廷魔法師団団長、『
ぷぷっと思わずアルは笑ってしまった。
中二臭い二つ名だ。
「…知っていたのか?」
「いや、鑑定持ちなだけ。職業に出る二つ名ってスゲェな」
称号ならありそうだが、何にも効果がないと職業になるのか、それ程広まってる二つ名なのか。
「…鑑定阻害のマジックアイテム使ってるんだけどな」
ああ、だから、自信満々で子供の振りで近寄って来たのか。
「鑑定のレベルが高い相手には無効なんじゃね?おれの鑑定様、超優秀だから見たことない食材のレシピまで表示してくれるようになったし」
かなり便利だ。情報源はどこ?と思わなくもないが、魔法がある世界なんだから何でもありだろう。
「そうか。…ともかく、王宮へ来てくれ。君も身体強化が使えるのなら走って行くのが一番速いと思うんだけど、どうかな?」
「身体強化は使えるけど、一番速いのって影転移じゃね?シグマさんも一緒に送ってあげよう」
シグマは影魔法も空間魔法も飛行魔法も使えないが、おそらく一番速い移動方法は雷魔法を身体に
アルも練習すれば出来るようになるだろうが、光って動くのは恥ずかしいし、実用的な速さじゃないので練習しない。
アルは返事も聞かず、シグマを連れて王宮の正門前に影転移した。
「なっ、何者だ!」
門の衛兵が驚いてイキり立ち、槍を向けて来る。
「シグマさんに招かれて来たかき氷と冷水の自動販売魔道具の設置商人だ」
アルは商業ギルドでもらった営業許可証を見せた。
「…商人?」
「ほ、本当に商人?…シグマ様?」
「え?…ああ、そうだよ。商人だ。…アル君、影転移を使うのなら、もうちょっと心の準備をさせてもらいたかったな。そもそも、まったくの無詠唱って何?」
「何って言われてもさ。冒険者は無詠唱の魔法使いも結構いるんだけど」
「それは知ってるけど、簡単な魔法だけだと聞いてるよ。そもそも、アル君、魔法の発動媒体は?」
「いらねぇけど、それも冒険者には多いって。っていうか、こんな所で問答してていいのか?門前に設置するんならそれでもいいけど」
「あ、いや、中にお願いします」
衛兵に槍を下ろさせると、隣の小さい通用口を開けさせ、シグマが先に歩き、アルもついて王宮の中へ入った。
すぐに騎士たちが駆け付けて来て、一緒に行く騎士と伝令に走る騎士に分かれたが、前後左右、二人ずつ八人の騎士プラス宮廷魔法師団団長という、過剰な警戒だった。
アルは笑うしかない。
「なぁ、シグマさん、スゲェ人材の無駄使いだと思わねぇ?たった一人の丸腰の商人相手に」
「時に形式というのは必要なのだよ。君がその気になったら、一瞬で殲滅されるのは分かっていてもね」
「シグマ様、この方が商人なんて嘘でしょう?冷や汗が止まらないのですが」
「おっしゃる通り、一瞬で殲滅されそうです…」
「アル君、Cランク冒険者でもあるんだよ。実力的にはSランクオーバー…足りないな。大災害クラスだと思うんだけど、悪意はなさそうなんで」
「悪意はねぇけど、おれが温厚なのにも感謝してもらいたいな。血の気が多かったらこの扱いにキレて、王宮壊滅してるだろうし。…っていうか、既におれの仲間たちが怒ってるのをなだめてるワケで」
嘘じゃない。念話でのやり取りで外部には分からなかっただけで。
『マスターに対してこの扱いはっ!』『格の違いを思い知らせてやりましょう!』とコアたちが。
血はないハズだが、血の気が多い。
ダンジョンという戦いの場を管理しているので、自然と「喧嘩上等!」な気質なのかもしれない。
「…仲間?精霊か使い魔か何かかい?」
「もっと怖い存在。せめて騎士の人数は半分にしようぜ。形式だけでいいんならさ」
アルは前後左右から一人ずつ、全部で四人を同時に中庭に影転移させてやった。他の四人の騎士は言葉もない程驚いていたが、
「…無造作にやらないでくれる?」
と一度影転移させたシグマには、こめかみを押さえながら文句を言われた。
「じゃ、まず訊こう。シグマさんも同じ所に移動させようか?」
「悪かった。文句はもう言わないのでおとなしくついて来て欲しい」
「シグマさん、
「まっ…」
アルはさっさと影に潜り、このラーヤナ国国王の執務室に影転移した。
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