152 酒の席の戯言がこんな所にまで
「お、まだ四時か。混む前にギルドに行こう」
つい直接転移してしまいそうだったが、思いとどまり、ダンジョンボスの部屋に出来た扉から中へ入り、そこにあった転移魔法陣から1階へと転移した。
どこに出るかと思ったら、ダンジョンの出入口すぐ側。
当然、入って来る冒険者たちも出ようとしていた冒険者たちもいるので、かなり驚かせてしまった。
「ここに転移陣はなかったハズ…」
「え、何で?…転移だったよな?」
「最下層からの転移。攻略して来たから」
信じても信じなくてもどうでもいいので、シヴァはさっさと外に出て、騎竜を出し、ミマスの街へ。
朝も見たからか門番には驚かれず、さっさと中へ通してくれたので、シヴァは混む前に冒険者ギルドに来れた。
シヴァが中へ入ると、途端に静まり返るが、スルーして買取カウンターへ行く。待ってる人はいなかった。
「ダンジョンのドロップ品、数があるんだが、どこに出せばいい?」
「え、あー…じゃ、裏の倉庫まで来てくれ。何階までのドロップ品だ?」
態度を決め兼ねたような買取担当のおじさんだったが、いつも通りでいっか、と割り切ったらしく、普通にそう訊いて来た。
「40階まで」
「…ミマスのダンジョンで?」
「ああ。攻略して来た」
「ちょっと待ってくれ!…ギルマス呼んで!大至急!おれじゃ判断出来ん!」
倉庫に促しかけた買取担当は、振り返ってギルド内に叫んだ。
「レアドロップですかっ?」
「それどころじゃねぇっ!攻略したってさ!」
「……ええええっ?」
「……本当ですかっ?何十年も誰も攻略出来なかったのに?」
ギルド内が騒ぎになり、右往左往していた職員も多かった中、ちゃんと呼びに行った職員もいたらしく、ギルドマスターがやって来た。
「ダンジョン攻略したって本当か?誰が?何階まであって何がボスだった?」
…ギルドマスターも落ち着いてなかった。
「まぁ、落ち着け。時間がかかりそうだから、先にドロップ品の査定をしてくれ」
「お、おう。そうだな。倉庫はこっちだ」
買取担当のおじさんが倉庫に案内し、シヴァは倉庫でドロップ品を出した。浅層から順に。
「待て、待て、ちょっと待て!こんなにも買取れないぞ。とりあえず、ここまででしまってくれ。他はリストか何か作ってないか?」
20階手前ぐらいのドロップ品で区切られてしまった。
「あるが、名前だけで価値が分かるのか?」
「…説明してくれると有り難い。あんた、鑑定持ちってことだよな?」
「ああ。シヴァだ」
「ノークスだ。シヴァ様は昨日から話題をさらってるSランク冒険者ってことでいいよな?」
「そうだ。でも、何故、様付け?」
「これでも敬意を払ってるワケだ。皆もそう呼んでるしな。それで、これはレアだろうな、というドロップはあったか?」
「そこそこ。雷属性のタガー、聖属性のワンド、剛力が付与されてる斧とかな」
「…そ、それはまた…到底買取れそうもないな…」
やはりか。
そこそこの大きさの時間停止のマジックバッグも出たのだが、更に言えない。
「…Sランク、半端ねぇな…」
少し遅れてギルドマスターも来ていたのだが、言葉もなかっただけだった。
「シヴァ様は、そういった特殊な武器は別にいらないワケか?」
「いらんな。錬金術が使えるんで自分で好きなように作れるし」
「…ひょっとして、その装備、自分で作ったのか?」
「ああ。出来がいいだろう?レア素材を惜しみなく使った逸品揃いだ。金銭換算すると、国家予算何年か分ぐらいかかってるかもな」
「……えーと、話を戻すぞ。ギルマス、下層のドロップはどのぐらいどの程度の物を買い取っていいんだ?」
「あーええっと、…シヴァ殿、申し遅れた。ギルドマスターのカルプだ。そのリスト、写させてってもらっていいか?魔道具ですぐだから」
「ああ、構わない」
シヴァは目の前に出した分までは印を付けてから、ギルドマスターに渡した。すぐにギルド内へと戻って行く。
「それにしても、たった一日でよく攻略出来たな。あれか?話題になってる竜の騎獣に乗って飛んで…って、通路がそう広くないか」
「ああ。単に走っただけだ。邪魔な魔物を斬って行っただけでも、ドロップが多くて」
「…走っただけって…短期間でSランクになるだけあるんだな、やっぱり。で、ボスは何だった?」
「グリーンドラゴン」
「ドラゴンかっ!ソロでよく倒したな!さすがに手こずったんじゃないのか?」
「全然。今までで一番手強かったのはジャイアントワームだ。無茶苦茶再生能力が高くて、中々死ななくて」
「そうなのか?でも、ドラゴンも再生能力は高いもんだろ?」
「切り刻んだら増えたが、それだけだ。厄介という程でもなかった。ドラゴンならドラゴンゾンビの方が強いし、しぶといと思うぞ」
「…ドラゴンゾンビまで倒してるのか」
「結構、色々行ってるしな」
そこに、ギルドマスターが戻って来て、ドロップリストはシヴァに返って来た。
「ここじゃ何なんで、応接室の方へ来てくれ。…ノークス、この査定はよろしくな」
「分かった」
シヴァとギルドマスターは場所を応接室に移した。
ダンジョンについてシヴァが話すと、ギルマスは驚きつつも、ちゃんとメモを取って行く。
「で、今、シヴァ殿が持っている物で、納品依頼が出てるものがあるかどうか受付に調べさせてるから、もうちょっと待って欲しい」
「それはいいが、茶の一つも出ないのか?」
「あー悪い。立て込んでしまってて」
「じゃ、セルフで」
シヴァはハーブティを飲みたくなったので、茶器を出してマグカップグラスに淹れると、氷魔法で冷たくした。氷も入れる。
「…ものすごく高度なことを無造作に」
「気にしたら負けだとおれに関わる奴は言うようになるな。…いるか?」
「いや、いい。何かものすごく高い茶葉のような気がするし」
「買うとそうかもな。ダンジョン産ハーブを加工してブレンドしたものだ」
「使用人が作ってるのか」
「何で使用人?おれがおれ好みで作ってる。魔法も使ってな」
ハーブを洗って乾燥して好みにブレンド、というだけだ。この世界特有のハーブもあるので、そういったものとの組み合わせも楽しんでいる。
「側仕えとかメイドとか普通にいそうなんだが、いないのか?」
マスターと呼ばれてはいても、給料を払っていないからコアたちは部下ではない。仲間という感じか。
「いない。そんな大層な立場だったら冒険者はやってないだろ」
「まぁ、そうなんだけどな。エイブル国では『黒の皇帝』とか呼ばれてるんだって?」
「酒の席での
くだらなくもないのか?どこかの国の皇帝なんかより、余程、戦力を持っているのは確かだ。コアたちなしでシヴァだけでも。
「十何年か振りのSランクだ。話題になって当然だろ。ギルド間だけじゃなく、普通に商人たちからも噂が広まってるし。…ああ、商人で思い出した。ウチのギルドだけじゃ到底買い取れないし、商業ギルドの方でも欲しがると思う。それで、後でグダグダ言われるより、最初から話し合っておいた方がいいと思うんだが、別に構わないか?どれをいくらで買い取ってと決めるのも二、三日かかると思うが」
「二、三日だと構うな。後二日しか宿を取ってないし、おれもそこまで暇じゃない。明日の夕方までに決めなければ、他で買い取ってもらう」
転移で戻ればいいだけだが、そう甘い対応もしていられない。
「分かった。商業ギルドと早急に話し合おう。納品依頼が出ているものの精算も明日の夕方でいいか?」
「ああ。今査定しているものだけ先に精算しておこう」
そうと決まれば応接室に用はないので、シヴァは再び買取カウンターに行き、ノークスから買取金額書類をもらい、受付に持って行くとスムーズに支払われた。
では、今日もイディオスを誘って来よう。
宿の料理にプラスしてうな重を出したら、どんな顔をするだろうか。
…普通に食べるか。
どんな魔物だったか知っていたら、ギャップで驚くかもしれないが、それでも美味しく食べるに違いない。
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新作*「番外編06 真に恐ろしいお菓子」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330658456626931
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