079 ウラルがとばっちりを食らってた
応接室で待つ間、アルは暇なので【冒険の書】を読んでいたい所だったが、見つかると大騒ぎになるので出せない。
なので、紙とペンを出し、野営の時に使いたい小屋の設計をすることにした。
どうせならいい物を作りたい。
二階建てでもいいんじゃないだろうか?
一階はぶち抜きの広いLDKとトイレバス。二階が寝室。
ログハウスだと重くなってしまうだろうが、マジックバッグから出す時、しまう時も重力魔法が働いているのか、重量はまったく感じないから重さは気にしなくていいだろう。
土台と排水口、排水槽を土魔法で作るので、その時に浸水しないよう土台を作ってその上に小屋を置くようにすればいいか。
すると、デッキテラスが欲しくなり、お茶だけじゃなく、ちょっとしたバーベキューも出来るぐらいのスペースが欲しい。
……別荘だな、うん。
その時、ギルドマスターリックが部屋に入って来た。
「アル!何でそう早くに帰って来るんだっ?」
「いやいや、呼び出しといて、何なんだよ?それは」
「パラゴからここまで、片道、かなり急いでも馬で一週間はかかるのに、ここにいるからだ。でもって、パラゴのギルドからも問い合わせと謝罪が入ってるから、行ってるのは確実なのに」
通信の魔道具で連絡が入っていたらしい。
「謝罪?…あーお偉いさんが受付職員たちの所業を聞いたのか」
「あり得ん対応だから謝罪して当然だ。お前はペナルティーを決める権利があるが、どうする?」
どさっとリックはアルの対面の椅子に座る。
「書類は揃ってるのに依頼達成の処理を全然やらなかった受付は、半年の減給でいいよ。受注の時の受付は注意程度で」
「甘くないか?厳しくするのがいいとは限らんが…」
「どうせ、そんなに依頼は受けねぇし」
「ちゃんと依頼を受けて実績を稼げ!冒険者だろ!」
「だから、自由。で、盗賊捕縛した時の話?騎士さんたちから聞いてるだろ」
「裏付け確認だ。一通り話せ」
はいはい、とアルは斥候の気配を感じた時から順序よく説明した。
「ほぼ一緒だな。捕まえた盗賊たちは犯罪奴隷に落とされ、その売った代金、討伐依頼の報奨金があるんだが、騎士たちから直接の依頼を受けたからお前は放棄した。間違いないか?」
「ああ、間違いない。で、ここにサインすりゃいいんだな」
「そう」
アルはリックの差し出した書類にサッと目を通してからサインした。
「で、騎士たちと会った日時、お前がパラゴで依頼を受けた日時を考えると、あり得ん早さだが、どんなからくりだ?商人たちが見た『すごい速い乗り物か魔物』と関係あるんだな?」
「おう。魔道具の乗り物。レア素材と高ランク魔石と新技術を使いまくってるし、鑑定でもおれ以外には作れねぇって出てるし、乗るのも無理だ。商人たちがいくら目の色変えてもな。無理なもんは無理」
「作れないのはともかく、乗ることも出来ないってのは何でだ?」
「魔力の問題。バカ食いするんだよ。一般人にとっては。おれのように26万も魔力ねぇだろ?」
実は、魔力の少ない人でも魔力貯蔵タンクのおかげで乗れるのだが、それは言わない。
その魔力貯蔵タンクにチャージする魔力量は、やはり破格な程多いので、アル以外なら何ヶ月もかかかるかもしれない、というのもある。まだまだ実用には向かないのは事実だった。
「……おいおいおい!何だ、その数値は!ケタが違いまくってるぞ!魔力量は100以上で多いって言われるぐらいなのに」
「ケタは初期から違ってたんだよ、多分。ギルドのステータス表示は三桁までなんで。自分でステータス見れるようになってから、おれも知ったんだけど。ってことで、おれにしか乗れねぇワケ。技術提供するつもりもなし。各種魔法を使えねぇと一部分すら作れねぇし」
「そんなとんでもないものが、王族にバレてるんだが?」
「やっぱり、あの馬車の中の人、五番目の姫さんだったか。パラゴで噂を聞いてまさかとは思ってたんだけど」
「予想してたんなら、もっと早くこっちに教えろって!お前、何か色々と技術持ってるんだから!」
「通信関係は既にあるだろ。…で、姫さんは新人冒険者になってダンジョン探索中?」
「そうだ。騎士たちと一緒にな。いくら、出奔した五番目の姫様でもその辺の宿に泊まるワケには行かんし、周囲も放って置けないから、ナバルフォール子爵家に滞在していて、そこの令息のウラル様、だったか?」
「あー分かった!ウラルが忙しい原因、学校じゃなく姫さんだったのかよ。いきなり訪問じゃなく、前もって手紙ぐらいは出してただろうし」
「ってことだ。ウラル様も姫様にダンジョン探索もつき合わされてて、『アルさんにご迷惑かとは思うんですが、手伝って欲しくて…』って涙目で訴えかけられてみろ!同情するだろ!」
「ギルマスのショタ疑惑に拍車が駆かってそうだけどな。それにしても、その姫さんと騎士たち、もうちょっと頭使えねぇの?子爵のトコにおんぶに抱っこで、冒険者ごっこして遊んでるだけじゃなくてさ。何か功績があれば発言力が強くなって、政略結婚も断れて王宮に戻れるんだから、見たこともねぇ乗り物の持ち主に会ったらしっかり交渉すればよかったのに。王様や貴族たちに披露したら一目を置くだろうし」
「十三歳の姫様はともかく、騎士たちの方は考えなくもなかったと思ううぞ?だが、そういったことも見越して派手な魔法を使って見せられては、却下するしかないだろう」
「だから、交渉だって言ってるんだけど、貴族出身の奴らが多いと、上から命令するだけで交渉出来る相手ってのがすっぽ抜けるのかなぁ?ま、ウラルに連絡取って、どうするのか聞いてからだ。どこまでの依頼にするか、誰が依頼主になるのかってのもあるし。で、ウラルたちはダンジョンでいいのか?」
「ああ。2階か3階だろ。4階の草原フロアは守り難くなるし」
「だろうな。じゃ、行って来よう」
帰って早々だが、本当にウラルが困ってそうなので仕方ない。
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新作*番外編03 『結婚生活を快適にするベンチ』と『まふぉん』
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330657426354447
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