078 行列に並んで文句を言われる

 パラゴの街の門を出て少し歩き、周囲に誰もいなくなってから、アリョーシャ側のいつもの河原へ転移した。

 見慣れた景色にホッと安心する。

 長距離転移も難なく出来た。

 当然、魔力は多く消費したが、長距離転移に慣れれば、最適化されて減らせるようになるだろう。


 まだ朝早い時間だが、街から街へ行く行商人は朝早いので、続々とアリョーシャの門から荷馬車と護衛が出て来る。

 そんな所へ、アルはバイクで乗り付け、すぐにマジックバッグに収納した。

 半端な時間に街に到着なので、ずっとこの乗り物で走って来ました、演出である。

 アルは顔見知りの警備兵に挨拶して街の中に入り、定宿『ランプの宿』へ。

 食堂にはゆっくり目に起きてご飯を食べる商人や冒険者たち。


「あら~早かったわね、アル君。お帰りなさい」


「ただいま。全然特産じゃないお土産で悪いんだけど、大将と食べて。この『海苔の佃煮』は、ご飯にちょっと付けても、パンに塗っても美味いから。甘辛い感じ」


 パラゴは土産になるような物がなかった街なので、宿で居合わせた商人から買った海苔の佃煮の瓶を女将に渡した。


「悪いわね。ありがとう。後で頂くわ。アル君、朝ご飯食べた?」


「ああ。だから、ハーブティ頂戴。ちょっと寝不足だし」


 夜、ダンジョンで狩りをしていたので。


「じゃ、ハーブティにミルクを入れたものの方がいい?胃に優しく」


 トッピングやバリエーションは女将の気分で変わる。


「おう、そうして」


 アルが空いてるカウンター席に座ると、顔見知りの冒険者が席を立って近寄って来た。アルと同じく定宿にしているので、たまに会うし話す。


「よぉ、アル。何したよ?ギルド職員が何度も宿に来てたぜ」


「何もしてねぇって。受付嬢にもしばらく不在にするの、言ったんだけどなぁ」


「じゃ、ダメ元でも何か頼みたいことがあった、とか?」


「こらこら、勝手に話さないで頂戴。後で言おうと思ってたのに」


 ハーブティを淹れながら、女将がそこでたしなめたので、男は軽く謝って元の席に戻った。


「何だって?」


「アル君、旅の途中で盗賊捕まえたんでしょ?その話が聞きたいから帰ったらギルドに顔を出してくれっていうのと、その後も職員さんが来たのは『すごい速さで走る魔物か、乗り物に心当たりはないか』だって。で、アル君がそれっぽいのを持ってなかったかって、あたしらの方にも確認して行ったよ。知らないって答えたけど」


「どっちも何でおれだと思うんだよ?」


 盗賊捕縛の時は名乗ってないのに。


「あら、違ったの?」


「いや、おれだけど、名乗ってなかったし、偏見過ぎないかなぁ、と思って」


「まぁ、若手冒険者の中でも目立つからね。アル君。貴族のお嬢さん、泣かしたって聞くし」


「何か変な言い方するし~。泣かしたのは親で八つ当たりされてただけだっつーの。依頼関係で」


「あらあら、照れちゃって…ないわね。色っぽい話はないの?」


「何故、おれにそんなのを期待するんだよ…」


 どこかの誰かのせいで、絶賛単身赴任中なので、アルに色っぽい話なんかあるワケがない。愛妻家なのだ!

 ああ、言いたくても不自然過ぎて言えない。

 十五歳で成人するこのエイブル国でも、アルのような十六歳の男(中身は二十四歳)で結婚しているという人は滅多にいないのだ。女は早めに結婚する人は多くても。ヤサグレたい。


「アル君、絶対モテるから。気付いてもスルーしてる感じよね」


「あーそ~」


 適当にスルー。

 ミルク入りハーブティを飲んだ後、アルは仕方なく冒険者ギルドへ行った。伝言を聞いてない、となると宿の女将たちに迷惑がかかるので。

 冒険者ギルドは、朝の一番混む時間帯は終わっていても、まだまだ賑わっていた。アルは受注以外の受付に並ぶ。


「おーアル、帰って来てたんだ。ギルマスが探してたぞ」


 隣り合った列に顔見知りがいて、声をかけて来た。


「それ、いつもじゃねぇか」


「あーはいはい、何か嫌な噂してる奴らがいるよなぁ。気の毒に」


「たっぷり同情してくれ」


「それにしても、アル、パラゴのダンジョンに行ったんじゃなかったっけ?途中で引き返した来たのか?」


 アルがどこに行ったかも噂になっているらしい。まぁ、別に隠してない。


「いや、行って来たぞ。速い移動手段があるんだよ。それを目撃した連中から問い合わせがあったらしくて、呼び出し食らったワケ」


「速いのに目撃?」


「『よく分からないことがあったら、おれのせいに違いない』って思ってるようでさ」


「ひでぇ言いがかりだな」


「ホントだよ」


 そんな世間話をしているうちに列が進み、アルの順番になる。


「アルさん!何で並んでるんですか!」


「何で並ばねぇと思うんだよ?」


 そんなに急ぎの用件じゃないと思うのだが。


「いえ、そうじゃなくて。ともかく、応接室に来て下さい。ギルマス呼んで来ます!」


 受付嬢は一旦席を外して、アルを奥の応接室に通し、自分はギルドマスターを呼びに行った。




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新作*番外編03 『結婚生活を快適にするベンチ』と『まふぉん』

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330657426354447


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