077 錬金術で作るモノと言えば?

 さて、気を取り直して張り切って行くか。

 夕食後。

 アルはパラゴダンジョンに来ていた。

 宝箱ゲット後、夕食まで物作りに精を出したし、明日の朝には帰るし、夜間のダンジョン探索は初心者たちはしないので、存分にスライム狩りに来たのである。


 夜間にダンジョンに入るのは別に禁止されているワケではないし、洞窟フロアはヒカリゴケでぼんやりと明るく、鉱山フロアは松明で明るいのだが、それ以外が外と同じくかりそめの夜になり、視界が悪くなるし、魔石ランプでは一部しか明るくならないので不覚を取り易く、泊まりで探索している冒険者たちも探索活動をやめて休む。

 …普通なら。

 普通じゃない人たちも当然いるし、その一人がアルだ。


 スライム狩りの後は、午前中、やむなく断念した15階の鉱山フロアのレア金属ゴーレムと19階のジェネラル・ロードスパイダーシルク狩りだ。


 スライム程度なら素手でもオーバーキルだが、鍛錬がてら駆け抜けてミスリル刀で斬って行く。

 ドロップは空間収納でダイレクト収納だ。

 何度かこの方法を使っているうちに、空間収納もレベルを上げたらしく、アルが走る速度に合わせて、とまでは行かないが、数テンポ遅れ程度で収納してくれるようになった。


 4階までは他の魔物と合わせて上位種スライムも出て来るので、1階から順番に降りて行く。

 スライム以外の魔物のドロップはいらない物ばかりなので、放置。やがて、ダンジョンに飲み込まれる。


 やはり、他の冒険者はいないので、サクサクと狩り進めて行ったアルだが、4階の真ん中辺りの天井にあった隠し部屋がなくなってるのに気付いた。ここのダンジョンも隠し部屋はランダムで移るらしい。


 草原フロアなら地面か木のウロだな、と当たりを付けて、5階から9階も行き、探知魔法でちょっと探してみるが、そう上手い話はなかった。


 10階のボス部屋は今日はリポップしていて、こんな時間に待ってる人もいなかった。

 昨日は倒されていたのでアルは待たずに素通りしたのだ。

 10階のフロアボスはミノタウロス。


 牛頭人身の迷宮の怪物だとアルのいた世界では伝承が残っていたが、魔物バージョンは3mもあり、古代ローマ人のような服を着てサンダルも履き、戦斧も使うので、それなりに考える脳味噌があるのかもしれない。

 …というか、誰が服を用意しているのか知りたい。あれも魔力合成なのだろうか。


 アルの武器はなし。

 ダンジョンボスのバジリスクでも、だいたい三十秒とあっさり過ぎたので、今回は素手でやれるだけやってみようチャレンジである。


 アルがボス部屋の扉を開けて入り、普通に歩いて近寄ると「何だ、こいつ」とばかりにミノタウロスは首を捻っただけで、戦斧を振り上げたり、身構えたりもしなかった。


「ダメダメボスか、また」


 カツ入れも兼ねて、アルはミノタウロスの腕を取りぶん投げてやった。

 びたんっ!と壁に叩き付けられる。

 身体強化なしで膂力りょりょくだけで投げたのに、意外と軽い…ワケがなく、合気道の梃子の原理を利用した投げ技だ。


 痛みを感じるのか、中々立ち上がれないミノタウロスに、アルは壁を利用した三角跳びで勢いを付け、飛び蹴りを腹に食らわし、その弾力を利用して脳天にも蹴りを。

 ……凹んだ。

 ミノタウロスの頭が。

 そういえば、このブーツ、つま先はベアの爪の合金で安全靴のようになっているんだった。

 履き心地をよくしてあるので忘れていた。


 もうちょっと保つかも?と期待したが、ミノタウロスはもうビクビクと痙攣し出したので、もう一蹴りで首の骨を折った。

 もうちょっと粘ってくれないものか。

 ミノタウロス討伐まで約三分。

 反撃を待った時間を含めてのことだ。

 どうなんだ、このダンジョン。

 噂と違ってボスが弱過ぎなんだが?

 隠し部屋のイレギュラーボスのラミアも戦闘力自体は高くなかった。

 精神的ダメージならダントツトップだ!


 ボスドロップは魔石と戦斧の二つのみ。

 しかも、この戦斧、鋼鉄製というだけで何の効果もない。

 あーあ、ハズレドロップか。


 アルは憂さ晴らしに20階に転移、二回目のダンジョンボスにチャレンジした。

 今度は真っ向勝負の肉弾戦で、アルは身体強化をかけて加速して跳び上がり、バジリスクの眉間に跳び蹴り。

 簡易結界を足場に更に跳躍し、バジリスクがぶっ飛んだ所に、逆側から更に蹴って今度は上にぶっ飛ばす。


 …というようにピンボールのような蹴り攻撃を繰り返した所、バジリスクは鱗を飛ばしたり、毒液吐いたり、と抵抗はしたが、十分ぐらいで息絶えた。

 毒の煙が立ち込めてしまったが、防毒指輪がかなりお役立ちでまったく平気だった。

 倒し方によってドロップが違うかもしれない!

 そんな期待をしてワクワクとドロップするのを待っていたが…待っていたが……おい?


 探査魔法でも鑑定でも死んでる認定なのに、ボコボコのバジリスクのまま、ドロップにならない。


「またかよ」


 アリョーシャダンジョンのボス、キマイラの時と同様だ。では、十五分程後か。

 毒煙はどこに追い出しても他の人に害がありそうなので、アルは状態異常を治すキュアを混ぜた風魔法で毒煙を中和し、念のため、結界を張ってからテーブルセットを出し、お茶することにした。

 今回はコーヒーにし、お茶菓子は錬金術作成マドレーヌ。元の世界にある材料で作る料理は、ちゃんと美味しく出来た。


「あーソファー作るつもりだったのを思い出した~」


 ソファー以外の物作りに夢中だったので。

 ソファーを作るのなら、面じゃなく点で支えるポケットコイル構造だろう。


 ベッドは最初は錬金術を使えなかったため、一つ一つ手作業でコイルを作って板の間に入れ、面で支えるコイルスプリング式を作ったが、錬成でポケットコイルに変更した所、最高の寝心地になっていた。


 要領はもう分かっているし、バイクで運転中、だいたいは決めていたので、後はデザインと素材があれば、一発錬成出来る。

 素材はトカゲ革、ポケットコイル式、クッション層は羊毛と毛皮にスライム皮を混ぜて弾力アップ。

 三人掛け、一人掛け×2、色はクリーム色で。

 待ち時間にちょうどいい、と今錬成してしまうことにした。


 ソファーが三脚もあるので五分ぐらい時間がかかったが、バッチリ成功。

 スライム皮を混ぜたのが活きていて、最高の座り心地、寝心地だ。羽クッションも設置する。


 あ、テーブルテーブル、と木材でソファーに座って使うのにちょうどいいローテーブルを錬成した。

 よしよし、と先程まで出していたテーブルセットと一人掛けソファー二つはしまい、三人掛けソファーとテーブルのセットでお茶の続きを楽しむ。

 作業中は空間収納にしまっておいたので、全然冷めていない。


 予定外の行動をしているせいで宿に帰るのが遅くなりそうなので、この後は15階のレア金属ゴーレムは今度に回し、19階のジェネラル・ロードスパイダーシルクの方だけを狩りまくろうか。

 長距離転移でも問題がなければ、いつでも…というか、もし、途中までしか転移出来なかったとすれば、何度か繰り返せばいいだけか。

 眠くなったら宿に帰ろう。

 そう決めた時、バジリスクが淡く光り、ようやくドロップに変わった。


 ドロップ品は魔石、両手のひらサイズの宝石が付いた宝箱、丼が入りそうな大きさの長方形の木の箱の三つだった。

 魔石はすぐに収納し、後二つは鑑定して罠がないことを調べてから、テーブルに持って来て、まず今回初めて出た木の箱を開ける。上蓋が外れるようになっていた。

 中には丼…ではなく、本が三冊入っていた。


【冒険の書三冊セット・世界中のダンジョンを紹介した本。リアルタイムで更新し続けるので、詳しい情報が知りたい時は便利だが、ボス情報は名前以外は秘匿されている】


 ……なにぃ?ものすごい物が出たぞ!

 パラパラめくって、ここパラゴダンジョン情報を探してみた所、すぐに発見し、『ボスリポップまで後…』とリポップカウントまであった。10階のフロアボスも同様である。これは超便利だ。

 大事に空間収納へしまう。


 さて、キラキラ宝箱はどうだろう?とまずは合金を調べてみると、


【うさぎの後ろ足・ラッキーアイテム。これでタリスマンを作れば幸運+10】


とあった。これはラッキー!


 宝箱の中身は金属製で赤い石が付いたバングルが入っていた。

 前に出た革手袋(ゴーレム作成手袋)同様、これも何だか鑑定し難いような感じだったが、じっと見つめるうちに鑑定出来るようになった。


【変わり者のバングル・想定外の手段でダンジョンボスを討伐をした者に贈られるバングル。装着するとHP+100】


 ……これはハズレだな。

 +100程度、誤差の範囲だろう、とアルは久々にステータスボードを開いてみた。

 …うん、やっぱり誤差。

 さり気なく、器用さが上がり『S』になっている。錬金術で色々と作っているおかげだろう。

 変わり者のバングルは素材にしてしまうか。

 …って、へ?


 【ヒヒイロカネ・ロマン金属。これで合金を作るとかなり硬度を上げることが出来るが、加工が難しい。熟練が必要】


 【賢者の石・錬金術の技術の粋を集めた結晶。この賢者の石を触媒にして他の素材も集めて錬成するとエリクサーや不老不死の霊薬も作れる】


 鑑定にはそう出た。

 赤い石が賢者の石だったのだ!

 つまり、【変わり者のバングル】はひっかけだった、ということだ!なんて回りくどい!

 …というか、変わり者だから素材にしよう、と考えるのを予想されていたようなのが悔しい!

 ソファーセットその他を収納に片付けたアルは、気を取り直して19階のジェネラル・ロードスパイダーシルク狩りへと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る