076 何か嫌になっちゃったようだ

 そして、作ったばかりの宝石箱に入れた防毒リングの蓋を開け、防毒リングだと説明する。

 次々とアイテムを出すと、一番に目を輝かせたのはトリノだ。さすが商人である。


「…何か聞いてた以上に、とんでもねぇ小僧だな。このおれが全部見たことねぇアイテムってどーゆーことだ?錬金術師」


 作っただろ、とラーサクに遠回しに言われる。


「ダンジョン産なんだから知らないアイテムがあって当たり前だろ。超怖い鬼婆ラミアとかを頑張って倒して集めたのにさぁ」


 商人の前で言質を取らせるワケがない。


「…あ、それは気の毒。人型魔物のあのキモさは遭遇した奴にしか分からんよな…」


 ヴィクトルは同情してくれた。結構、いい奴らしい。


「だろだろ?再生力が超高かったジャイアントワームの方が、余程素直で可愛げがあるって」


「いや、可愛げまでは」


「…おい、Cランク。何でジャイアントワームなんざ、倒してるんだよ?」


「そこにいたから」


「…いたからって…そんな大物に遭遇したら倒さず逃げるんだよ、普通は!」


 ラーサクは割と常識人、と自分では思ってるタイプらしい。


「おれに普通を語ると虚しいだけだぞ。で、キラキラ宝箱は?」


 アルはさっさと話を戻す。


「ああ、これだ」


「ほらよ」


 ヴィクトル、ラーサク、二人共マジックバッグからキラキラ宝箱を出す。

 どちらも両手のひらの上に載るサイズだが、ラーサクが出した方は宝石なし。外したのではなく、元々そういったデザインだ。


 【ダークマター石・未知の物質で出来た石。他の素材と合成し、闇魔法・影魔法の威力を増幅させるアイテムを作ることが出来る】


 【クレリア・黒真珠によって性質を変化させた銀。鋼より硬く魔力を増幅する性質を持つ。魔法媒体兼用武器向け】


 さすが、Aランクが持っていた宝箱!かなりの深層から出た物らしく、聞いたことのない物ばかりだ。

 ぶつけても少し歪んだだけ、という方がラーサクが持っていた、クレリアが入っていた合金製である。

 アルは平静を取り繕う。


「どれと交換する?このバッグは売らねぇけど、有料でファスナーを使って新しく作ってもいい」


「一つは交換で後は購入っていうのはなしか?シャツは大きいサイズの方で」


 ヴィクトルがそう訊いて来た。


「いいけど、値段を付けられねぇから、やっぱり何かのアイテムと交換ならってことで」


「エリクサーはどうだ?」


 ヴィクトルがマジックバッグから小瓶を出した。

 鑑定すると本物のエリクサーだった。欠損さえ生やす万能薬。


「よし、バッグも付けてやる」


 さすがに貰い過ぎになるのでオマケした。

 見本のボディバッグはまた作ればいい。

 交渉成立。

 お互いのアイテムを交換して、それぞれのマジックバッグにしまった。

 アルはまた二本ファスナーを出した。


「…おい、何本持ってる?」


「錬金術師でもあるって教えただろ。これはおれが作った物。他の錬金術師には細か過ぎて無理って言われたけどな。欲しいのがないならこっちはどう?」


 アリョーシャダンジョンボスのキマイラがドロップした、ミスリル丸盾と三日月の短弓を出す。


「…スゲーもんが出て来たな。お前、どっかのダンジョン攻略してるだろ?」


 見る目は確からしい。


「ははははは。ただのCランク冒険者に何を言ってるのやら」


「“”Cランクなら、持ってない物ばかりじゃねーか。しかも、相当強ぇ。アイテム交換じゃなく、模擬戦するのはどうよ?」


「却下。結果が見えてるし」


「お前が勝つって話かよ」


 ラーサクは過信はまったくしてないらしい。


「まぁなぁ。いくらラーサクでも、アル相手だとちょっと分が悪いと思うぞ」


 ヴィクトルも頷く。…これだからAランクは。


「やってみないことには分からないことって、たくさんあるだろうが!」


「おれ、こーゆーことも出来るんだけど」


 アルは覚えたて影魔法で自分の影に潜り、【影転移】してラーサクたちが座ってる椅子の影から出た。

 ラーサクが反応出来なかった時点で勝敗は決まってる。

 油断していたのもあるのだろうが、何でもありの対人戦の経験値は低いのだろう。


 斬新な宝箱の使い方からしても、ラーサクはソロじゃなく、パーティを組んでいるようなので、自分が動かなくても誰かが、という悪いクセが付いているのもあるのかもしれない。

 ヴィクトルはアルが消えた時点で、立ち上がっていたが、まったく違う方向を見ていた。


「……おれの負けだ。宝箱は持ってけ」


 がっくりと肩を落としたラーサクだが、潔い。


「じゃ、『少し涼しいシャツ』と交換ってことで」


 アルは元の席に戻り、宝箱とアイテムをマジックバッグにしまい、少し涼しいシャツをラーサクに渡した。

 拒否する程、意地っ張りではないらしく、素直に自分のマジックバッグにしまう。


「今の闇魔法か?」


 我に返ったヴィクトルは座り直してから、そう訊く。


「影魔法。まだ使いこなせてねぇんで、移動出来る距離は短いんだけどな」


「詠唱は?」


「なし。Aランクでも無詠唱はしないもの?」


「しないんじゃなく、ほぼ出来んのだが…アル、魔法使いだったのか?身ごなしからして剣士かと思ったんだが」


「時々魔法も使う剣士、かな?魔法剣士と言うには、魔法はあまり使ってねぇし、素手で倒したりもしてるし」


「…何かもうデタラメだな。ドラゴンですらとっくに倒してそうだ」


「あははははは」


 ドラゴンゾンビなら倒した、とはちょっと言えない。


「……おい、倒したのか?」


 ラーサクが口を挟む。アルは曖昧に笑っておいた。


「………ふぅ」


 何か嫌になっちゃったようで、ラーサクはため息をもらした。


「パーティで、だよな?さすがに」


 ヴィクトルがそんなことを訊く。気付いてはいても、信じたくないらしい。


「さて、そろそろ帰ろうっと。…トリノさん、仲介料はこれでいい?」


 アルはさっさと流して、金貨1枚をテーブルに置く。


「いやいや、さすがに多いですよ。半分で」


「じゃ、多い分は手間賃で。驚かせたし」


 恩を売っておくのも悪くない、という判断である。

 トリノはそこまで固辞せず受け取ったので、アルは立ち上がった。


「じゃ、ラーサクさん、ヴィクトルさん。またキラキラ宝箱を見付けたら、アリョーシャの街の冒険者ギルドまで知らせてくれ。どこにいてもおれの方が行くから」


 そう言い置いてアルは応接室をさっさと出た。

 長居すると色々と追求されそうだ。

 釘を刺してあるトリノはまだしも、Aランク二人からは。仲良くするのもやぶさかではないが、今日はアルも予定があるので困る。


 宿に帰ったら、まずは腕時計を作ろう。

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