075 頑丈なので投擲武器として使った

 大満足の昼食を終えると、アルは作り置き料理を作ることにした。

 まずはご飯から炊く。

 魔石コンロの二口は土鍋ご飯、もう一口はスープを。

 スープはまず鶏ガラスープ。鶏ガラはさすがにダンジョンでは手に入らなかったので市場の肉屋で、肥料に使う程度しか利用してなかった骨類すべて購入し、鶏ガラスープだけじゃなく、豚骨スープ、牛骨スープを錬成した。

 材料を切って投入して軽く炒めて煮る。味付けは塩コショウ、鶏ガラスープ粉末。


 スープも料理も錬成出来るのだが、味付けや火加減がイマイチで、結局調整したので、普通に作るのが一番美味しくて一番の早道だと思い知ったワケだ。

 荒節あらぶし本枯節ほんかれぶしは美味しく出来てるので、錬成するアルに異世界食材知識があまりないのも原因だろう。


「あーパン、注文しとけばよかったな」


 そういえば、サンドイッチはもうなかった。ストックしているパンも残りわずか。

 パン食の人が多いからか、パンは普通に美味しい物が売っているので、自分ではピタパンやパンケーキぐらいしか作らなかった。

 ふらりとパン屋に行って店頭商品をさらってしまい、他の客が買えなくて迷惑をかけてしまうのは本意ではない。


 では、錬成するか。

 材料は揃っている。

 まず、干しぶどうと砂糖と水から天然酵母を作り酵母菌を錬成。強力粉と卵とヤギバターと砂糖とミルクと少しの塩、そして、菌の働きを悪くする塩とは一応離して酵母菌入れて、焼きたて食パンを錬成!

 一次発酵、二次発酵の時間はいらなかった。

 何度もホームベーカリーでも手作りでも作ったことがあるので、イメージがしっかりしていたからだろう。


 さすがにバッチリで味もその通り、いや、それ以上の味だった。高級食材として扱われているランニングバードの卵、ワイルドカウのミルクが味の決め手になってるのだろう。


 よしよし、と次々と色んなパンを錬成し、次々と空間収納に保存して行く。

 …ああ、サンドイッチ用の食パンは冷まさないと上手く切れない…こともないか。風魔法を使えば。

 食パンは厚切り、薄切り色々切って、再びしまっておいた。

 せっせと作ってるうちに時間が来たので、さっさと片付けて商業ギルドへ行った。部屋に時計があったからいいものの、なかったら危なかった。


 自由な冒険者だし!で錬金術を使えるようになっても作らなかったワケだが、いい加減、時計を錬成するか。

 この世界にある魔石時計だと大きくなってしまうので、自動巻きの腕時計で。蓋付きにしてバングルに偽装すれば、目立たないだろう。


 ******


 二時五分前に商業ギルドの受付に行くと、既に準備は整っていたらしく、すぐに応接室に案内された。

 昨日、対応してくれた職員…トリノ、三十前後ぐらいの二人は高ランク冒険者に違いない。


 一人はカフェオレ色の肌に短い銀髪、赤い目。鍛え抜かれた身体付きだが、筋肉隆々ではない。やはり、こういった最適化された身体の人の方が強いのだ。かなり強いのが分かる。

 武器は見える所には携帯してないが、オールマイティなのかも?と直感で思う。


 もう一人は獣人なのだろう。

 白い肌に襟元でくくった赤い髪、黄色の目。その瞳孔は爬虫類系の縦長だ。体型はすらりと背が高くて細身。

 いかにも蛇かトカゲ系の獣人っぽい。

 この人も武器は不携帯だが、メイン武器は槍だろうな、おそらく。これまたかなり強い。

 一瞬で観察を済ませた後、アルは愛想よく挨拶をする。


「こんにちは。今日はわざわざ来てもらってありがとう。Cランク冒険者のアルだ」


「ラーサクだ。Aランク」


「ヴィクトルだ。Aランク」


 ほぼ同じタイミングで名乗ったが、アルにはちゃんと聞き取れた。二人はちらりと視線で「譲れよ」みたいなやり取りしていたが。

 銀髪赤目がラーサク、長髪赤毛黄色目がヴィクトルだ。


「キラキラした宝箱とお前の持ってるアイテムとを交換したい、とのことだったが、何かあるのか?鑑定に出してもただの宝箱だったが」


 視線で押し勝ったらしく、ヴィクトルが先にそう訊く。


「その通り。ただのキレイな箱なんだけど、宝箱の素材は合金製でそれが欲しいんだよ」


「…は?そんな合金をどうする?何かに使えないかと鍛冶師に持ち込んだこともあるが、かなり丈夫な素材で時間かけても傷ぐらいしか付かなかったぞ」


 ヴィクトルは持ち込んだことがあるのか。考えることは皆同じだ。


「錬金術師の所へは?」


 アルはちょっと訊いてみた。


「おれはそっちに持ち込んだことがある。でも、やっぱり、分解したり精製したりは出来なかった。ここまで丈夫なら、と頑丈な魔物にぶつけてるけど、ほんの少し歪んだだけだし。欲しがるということは、そういった風に利用するのか?」


 ラーサクはそんな斬新な使い方をしたらしい。


「いやいや。そんな斬新な使い方しねぇよ。…あ、使ってるなら譲れねぇってことか?」


「別にいい。斬った方が早いんで」


「だよな。それがあったか、と思った自分がちょっと何。それで、アル、どうするのか言いたくないのか?」


 アルはヴィクトルの質問に答える前に念を押す。


「トリノさん、守秘義務ってあるんだよな?」


「もちろんでございます」


「じゃ、この場に出る情報、すべて誰にも言わねぇように。…宝箱の使い途は合金を分解して使いたいから。おれなら錬成出来るんで。ラーサクさんが持ち込んだ錬金術師が出来なかったのは、おそらくレベルの問題と鑑定スキルを持ってないか、熟練度が低いせい。魔力量も足りなかったかもしれねぇ。何が含まれているか分からなければ、分解も錬成も出来ねぇからな」


 思いもよらぬ話だったらしく、三人とも呆然としたが、ラーサクは我に返るのが早かった。


「錬成って、お前、錬金術師ってことか?冒険者の方が副業なのか?」


「いや、冒険者が本業。趣味を充実させたいってことで錬金術を覚えたワケだ。…ということで、交換してもらえる?こっちのアイテムはこれ」


 アルはマジックバッグから、少し涼しいシャツ、ファスナーを出す。

 パスカルに見せた時と同様、少し涼しい服はスパイダーシルク混コットンの半袖Tシャツ(斬撃・衝撃耐性、防御+10)、ヴィクトル用に大きいサイズをもう一枚、ファスナーはファスナーだけのものを二本と、実際に縫い付けて使用した例でマジックバッグじゃないただのボディーバッグを見せる。

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