058 平和な街、じゃなかった

 アリョーシャの街に一番近い街はイリヤといった。

 やはり、高い防壁に囲まれた街で、門前には入街審査の列に並んでいる人たちが数人見える。馬車はなかった。

 アルは一番後ろの少し手前でバイクを降りてマジックバッグに収納したが、さくさくと列が進んでいることもあって誰も振り返らなかった。静かなバイクはこの辺りもよかった。

 冒険者ギルドカードを見せると、別に何事もなく普通に中に入れた。


「冒険者ギルドってどこ?」


「大通り沿いに歩いて行けば、すぐ見えて来るよ。二階建ての石造りの建物だ」


「ありがとう」


 警備兵も親切だった。

 本当に分かり易い所にギルドはあったので、別に訊かなくてもよかったかもしれない。

 …いや、警備兵の対応が街の顔ということもあるので、よかったか。

 昼休みが終わったばかりのこの時間、冒険者ギルド内の食堂はまだ賑わっていたが、受付も買取カウンターも人がまばらだった。

 アルは買取カウンターに並ぶ。前に一人いるだけなので、すぐ順番になる。


「買取ってもらいたい物がたくさんあるんだけど、ここで大丈夫?」


「どのぐらいだ?」


「毛皮と爪と牙が100枚単位で」


「…おいおい、ダンジョンにでも行って…来たんだな」


「そう。多過ぎだって怒られるからこっちに」


「じゃあ、肉もあるんじゃないのか?」


「食うからあまり出せねぇよ」


 そう言われると思って、売ってもいい肉もマジックバッグに移し替えてあった。


「多少でもいいから出してくれ。じゃ、こっちの倉庫に頼む」


 倉庫に案内されたアルは、指定された場所に売る物を種類ごとに続々と出した。肉は下位種を中心に少し。


「何だそのマジックバッグ。大容量だな」


「ダンジョン産なんで」


「時間停止も付いてるのか?」


「いや?最近っつーか、つい昨日の物なんだから鮮度がよくて当然だろ」


 時間停止のマジックバッグに作り直したワケだが、シラを切った。


「そりゃそうだな。…あー計算にちょっとかかるぞ。他に用事があれば、先に済ませてくれ」


「計算なら得意だぞ。手伝ってやろうか?」


 待ちたくないのもあって、アルが手伝ってやったのですぐに買取金額書類が出来上がった。受付に持って行き、現金でもらう。


 そして、依頼掲示板を覗いてみたが、そう珍しい依頼はない。商人が立ち寄ることが多いらしく、護衛依頼が少し多い、という程度だ。

 CランクだとBランクの依頼も受注出来るが、平和な街なのか、Bランク依頼がほとんどない。

 では、市場に行くか、とアルが踵を返すと、そこに男が慌てて駆け込んで来た。


「お、オークの…しゅう…集落が……」


 息も絶え絶えだったが、何とかそれだけは聞き取れた。


「何だとっ?数は?どこに?」


 男の受付が慌てて聞き返す。


「東の…もり、ウチのパーティが…、はやく、おうえん…」


「数は?上位種もいるのか?ジェネラルやキングがいるのか?」


「200はいるって……」


 全然、平和な街ではなかった。

 アルはさり気なくギルドの外に出て、物陰から街の外へ転移する。

 東の森に探知を広げてみると、オークの群れの一端がひっかかった。

 結構、奥の方だ。アルはバイクを出して走り、森に入った所でバイクを停めて収納にしまい、身体強化して走った。


 そのまま、ミスリル刀を取り出して腰に差し、すれ違うオークの首をねて行く。

 大分、森の奥に来ても、オークの集落を見つけたパーティが探知にひっかからない。もう遅かったのだろうか。

 アルのスピードにオークたちはまったく付いて来れないので、さくさくと殲滅して行った。


 オークジェネラル、オークキングもいたが、ダンジョン内の奴らよりも戦闘能力がかなり低い。外敵があまりおらず、ぬくぬくと満喫していたのかもしれない。


 オークキングはAランク、オークジェネラルはBランクなので、この二匹…いや、ジェネラルがもう二匹いたので、全部で四匹の魔石だけは取り出して回収しておいた。

 ダンジョン外の魔物は解体が必要になるし、たっぷり収納されているので他はいらない。

 高ランク魔物の肉は美味いが、後始末にも人手が必要になるのでその資金の一端にするといい。


 簡単な掘っ立て小屋まで建てていたので、他の魔物が住み着かないよう壊して焼いておいた。

 さすがに数が多いと返り血を少しは浴びてしまったので、ミスリル刀と共にクリーンをかけ、少し刃こぼれしたミスリル刀を錬金術で修復してから、マジックバッグにしまった。


 200匹オーバーを斬ると、いくらミスリル刀とはいえ、付与なしの鋼との合金のため、多少は刃こぼれしてしまったのだ。

 魔物の死体はアンデッドにならないよう焼くのが常道だが、延焼しない所に全部集めて焼くのは面倒だし、そう時間がかからず、イリヤの街の冒険者ギルドから人が来るだろう。


 アルは一応、周辺を探してみると、残念ながら遺体を発見してしまった。

 おそらく、この三人がオークの集落を見つけた男のパーティメンバーだろう。流れた血が乾きかけているので、冒険者ギルドに男が知らせに来た時にはもう手遅れだった。

 動かすのも何なので、そのままにしたが、アルは遺体の側にしゃがんで手を合わせた。まだ若いのに気の毒に。


 そして、アルはアリョーシャの街の側、いつもの河原に転移した。

 イリヤの街を散策する気分ではなくなってしまった、というのもあるが、アリバイを作っておかないと面倒なことになりそうなので。



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関連話「快適生活の追求者【番外編】01 ある日ある夫婦の会話」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330656939210248

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