057 マイバイク完成!
「ふっ、自分の才能が怖いぜ!」
周囲に誰もいない街の外。
誰も褒めてくれないので、いつものようにアルは自画自賛した。
目の前には元の世界の愛用バイク。
クルーザータイプでシートが低めの位置にあり、前傾姿勢にならなくていいので長距離ツーリングに向いてる車種だ。
この異世界にはガソリンがないので、エンジンは形だけのものだが、魔力駆動でちゃんと走る。
そう、魔力駆動の魔道具バイクなのだ!
魔力を溜めておけてチャージも出来るのなら、魔石を使い捨てにしなくていいし、魔力が少ない人でも使える魔道具になるので、魔力貯蔵タンクを開発してみたのである。
ダンジョンでたくさん集まった魔石と素材と魔法陣を駆使して。
ミンサーや製麺機の構造と同じく、ベルトを回して回転する仕組みを採用しており、タイヤで走るが、飛行魔法発動で飛ぶことも出来る。
ゴムを見付けていないのでタイヤの素材が中々しっくり来ず、色々作って試行錯誤したが、まぁまぁ妥協出来る物になった。
たった三日でここまで作れたのだから、大いに威張っていいと思うワケである。
移動手段が何か欲しい、と思ったアルだが、馬は却下。
馬に乗ることは元々出来るし、馬の世話はダンたちに習ったし、荷馬車の御者も教えてもらったので出来るものの、馬だとどうしても休憩が必要になるし、大してスピードは出ない。
そこで、魔道具バイクなのである。
ヘルメットはともかく、虫がビシバシ飛んで来そうなので、ゴーグルは作成した。
後は試運転するだけだ。
エンジンじゃないのでエンジン音はしないのが少々物足りないが、愛用バイクをそのまま錬成したものなので操作性は抜群だ。
ライトも点くし、ハイビームにもなるし、ウインカーもブレーキランプも再現してある。スピードを出しても、至極安定しており、またもや自画自賛したくなった。
続いて、飛行魔法発動ボタンを押して飛んでみた。
推進力が風魔法に切り替わるが、速度調整はそのまま右手のスロットルだ。
高度はハンドルを引くことで上がり、押すと下がる。この辺りは飛行機を参考にしている。地面を走る時と同じくギアも連動しているので、空を飛んでも戸惑うことはなく、着地もスムーズ。
「ただ、魔力食うよな~飛ぶと」
それはもう仕方ない。
もっと大きい魔力貯蔵タンクを作るには、別の技術や法則が必要になるだろう。
浮遊魔力を取り込むシステムだが、動力にこれまた魔力を使うので、貯蔵タンクの三割も溜められない。
もっと効率的にするのが、今後の課題だ。
貯蔵魔力に頼らず、魔力を込めながら運転することも出来るが、それは魔力量が多いアルにしか出来まい。
雨対策に結界を張れるようにもしたかったが、まったく魔力が足りなかった。
アル自身が乗る分には自分で結界を張ればいいだけだが、雨対策だけしてないように見えるのがちょっと残念である。
さて、では、試運転も問題なかったし、ちょっと隣町に行って来よう。
街道を通らず、なるべく人は避けるが、街に近付くと人が増えるので、誰にもまったく目撃されないようには出来ない。
ゴーグルで人相は分からないし、バイクは収納にしまうので、見られた所で誰かの特定は出来ないか。
…こんなことをやらかすのは、という意味では限定されてしまいそうだが。
アルが鼻歌混じりに久々のツーリングを楽しんでいると、前方に荷馬車が停まっているのに気付いた。
休憩にしては数人がずっと荷馬車の周囲にいる。…となると故障だろう。
この辺は治安がいい方だが、時々魔物も出て来るそうだし、暗くなる前に街に到着した方がいい。
見付けてしまったものは仕方ないので、恩を売っとこうか。
アルはバイクに乗ったまま、停車している荷馬車の所へ向かい、
「こんにちは~」
とゴーグルを下げ、商人らしき三十代ぐらいの男に声をかけた。
「うわっ、な、何、いきなり」
バイクの音が静かなのもあるが、荷馬車を修理していたので気付かなかったのもあるのだろう。
他にいるのは、店員らしき男二人、冒険者らしき若い男二人組の合計五人で、冒険者は護衛なので荷馬車の前と後ろに分かれ、周囲を警戒していた、ハズだが、バイクの速度が速いので見逃していた。
「通りすがりの冒険者兼錬金術師だけど、直してやろうか?もちろん、有料で」
錬金術師でもある、と納得してもらうには、バイクで乗り付けるのが一番だろう、と思ったワケである。
どちらかというと魔道具師か?と思わなくもないが。
「え?…ええっ?それ、乗り物なの?」
「そう。出来立て。荷馬車ぐらい簡単に直せるぞ。どうする?」
荷馬車の下を覗いていたので、車軸が壊れたようだ。
「おいくらで?」
「必要素材にもよるから、まず、見せてもらうぞ」
アルはバイクから降りて、紺色のマジックバッグにしまう。
今回は初めて行く街なので念を入れてダミーじゃない。
荷馬車の下を覗くと、やはり、車軸が壊れていた。負担がかかる所なので金属で作り直した方がいい。
「木で折れた所を元通りに直すのなら銀貨8枚、鉄でコーティングして作り直すのなら金貨3枚」
少し重くなるが、元々荷馬車で荷物をたくさん積むのだから誤差の範囲だろう。
乗り心地をよくするためにサスペンションを入れたい所だが、商売人にヘタなことはしない方がいい。
「あー…ええっと車軸全体をコーティングってこと?」
マジックバッグだとは思ってなかったらしく、驚いていた商人だが、そんな質問して来た。
「車軸と車軸を支える周囲だな。二本共。一番負担がかかるだろ。油を差せばスムーズに回るし、かなり丈夫になる」
「材料はこちらが出しての金額です?」
「おれが提供。素材を出すんなら作業代で金貨2枚」
錬金術は安売りしてはいけない。
出張料は取ってないのだから安い方だと思う。
「では、鉄のコーティングでお願いします。お時間はどのぐらいかかりそうですか?」
商人はすぐに金貨3枚を払った。
「すぐ」
アルはマジックバッグから鉄と油を出し、荷馬車の側に置くと、すぐに錬成した。
淡く光って完了する。余った油はまたしまっておく。
アルは手で押して動きを見、馬にも少し引いてもらったが、問題なし。
商人たちを見ると、いや、冒険者二人も含めて、呆然と口を開けていた。
やはり、アルは錬成速度も規格外なのか。
他の人が錬成するのは小物ぐらいしか見たことないので、基準が全然分からなかった。笑っておくしかない。
「じゃ、これで」
「っま、待って下さい!こんなにすごい錬成初めて見ました!どうか、お名前を教えて…」
「イヤ」
「イヤ様ですか?」
「名無しで」
アルはさっさとバイクを出して走り去った。
やっぱり、商人には関わるんじゃなかったなぁ、と思いながら。
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