第5章・冒険者兼錬金術師

056 たこ焼き器と鰹節(荒節・本枯節)とコーヒー

 商業ギルドの後は門を出て、いつもの河原に行った。

 さて、最初に作るのはたこ焼き器だ。

 これは鉄ですぱっと錬成。

 たこ焼きの大きさを少々調整した程度で大丈夫そうなので、まずたこ焼き器鉄板は空焚きし、十分に熱した所で油を塗って野菜くずを炒め、油ならしをする。

 焦げるまで炒めてから野菜くずは捨て、鉄板はキレイに拭いて最初の処理は完了。


 その間にもう一つの魔石コンロでお湯を沸かし、沸騰させてから一旦火を消した。

 そして、ドロップ品の大きな鰹を取り出し、柵と切身に捌いて行く。鍋に入るだけ鰹を入れ、沸騰させないような温度で一時間ゆっくり煮る。


 たこ焼き器の準備が整ったら、具材を切って種を作り、たこ焼きを焼いて行く。ダシは川魚のアラを煮てから乾かして粉末にしたものを溶いたものだ。じゅわ~という音が嬉しい。

 食べる分だけ別の皿に取り、他のたこ焼きは紙箱を錬成し、その中へどんどん詰めて収納する。

 これでいつでもたこ焼きを食べられる!


「うまっ!」


 このたこ焼きは鰹節なしだが、後でしっかりかけよう。

 甘めのソースとマヨネーズのバランスが絶妙だ。

 どちらもアルが錬成した物である。

 この世界の卵は生で使うのが怖いので、材料を混ぜるだけの作り方ではなく、まず、錬成で卵の雑菌除去・浄化もしてから、固まらないよう低温で火を入れて安全なマヨネーズを作った。鑑定でもしっかり確かめて。

 かつて食中毒を出したらしく、ソースはともかく、マヨネーズは広まっていない。


 かなりの大きさのタコだったが、それだけで普通に茹でれば柔らかくて美味しいタコだった。タコ天も作りたい所だ。


 鰹(魔物)をゆっくり煮た後は錬成で骨を取り、乾かして燻製。土魔法で燻製器を作成し、燻製用のチップは香りのいい木を適当に使って作り、いぶす。

 これを何度か繰り返して荒節あらぶしが出来るワケだが、風魔法と錬成で一気に時間短縮する。


 無害なカビが手に入るのなら、本枯節ほんかれぶしが出来るのに…いや、待てよ?鑑定様があった!

 落ち葉や樹皮を調べて、無害なコウジカビを錬成で採取。

 コウジカビは麹菌とも言い、味噌や醤油の発酵に使われる程、メジャーな無害カビだ。

 半分は荒節にコウジカビを植え付け、本枯節ほんかれぶしを錬成した!


本枯節ほんかれぶし…素材が異世界の物とは違うので、より美味しくなっている。出汁にも使える】


 よし!

 次は鰹節削り器がいるので、これも錬成。

 しみじみと錬金術は便利だ。

 茹でる工程も錬成で出来るのなら、かなりの時間短縮に…一度作ったんだから、材料があれば一発錬成出来るのでは?


 思い付いたアルは、材料を並べて錬成してみると……五分で出来た!

 魔力は結構使ったが、鑑定結果も変わらなかった。


「素晴らしい!」


 長い時間煮た苦労は…などとは言わない。

 美味しい物が結果的に出来ればいいのだ!

 削り立ての鰹節をかけてたこ焼きを食べるこの至福なひととき!

 しばらくは困らないだけ荒節と本枯節ほんかれぶしを作ると、次はコーヒーだ。


 アルは学習した。

 最初に錬金術を使ってみるべきだと!

 一気に作らず、段階を踏もう。

 まずは実を割って種を出して焙煎からだ。

 ……成功。


 では、続いてコーヒーミルで挽いたように細かく。

 エスプレッソ程極細にせず、ドリップコーヒー用に。

 ……これも成功。


 ドリッパーとコーヒーポットを耐熱ガラスで錬成し、ペーパーフィルターをたっぷり錬成してから、いよいよ、異世界初コーヒーを淹れる。

 ……ん?あれ?


「…あーそうだった。焙煎し立てはそんなに香らないんだっけ」


 あれ?と思った所で気が付いた。

 二日目ぐらいが飲み頃なことを。


 香りはあまりなくても、味は求めていたコーヒー。

 ダンジョン産コーヒー豆で水魔法のお湯だからか、元の世界の物より美味しい。

 錬成出来ても工程を楽しみたいので、コーヒーミルは作ろう、と鉄とミスリルと木材で錬成した。

 元の世界で使っていたそのままのコーヒーミルで、調整するとエスプレッソ用の極細の粉も挽ける。


「って、エスプレッソの道具って…」


 圧力をかけるんだったか。

 直火式のエスプレッソメーカーは使ったことはないが、見たことはある。サイフォン式のような原理だが、圧力をかけるために沸いたお湯が細い管を通るようにしてあった。

 曖昧な所が多いので図に書いてみる。

 …あ、そうそう、こうなってた、確か。


 お湯を吸い上げる所はロートみたいになっていて、その上部にダンパーに入れた粉をセット。

 そこからコーヒーとして出て来る口は二口の噴水のようになっていて、ここで圧力をかける、という仕組みだ。

 下部は合金で上部は耐熱ガラスにし、出来てるかどうか分かり易くしよう。

 ……しっかりイメージ出来たので、思う通りに錬成出来た。

 エスプレッソ用の小さいカップも耐熱ガラスで作っておく。


 では、初コーヒーミル、初エスプレッソだ。

 エスプレッソ用焙煎で少し深入りにする。

 出来上がったばかりのコーヒーミルでガリガリと挽く音が心地いい。大量に作る予定じゃなければ、手動で作るのもいいと思う。


 ちゃんとエスプレッソが出来た。

 やはり、元の世界より美味しい。少し減った所で砂糖とミルクも入れて飲んでみるが、これもまた美味しい。


 カプチーノのために、ミルクフォーマーも作るか。

 素材は軽い合金で手入れが楽なのでシェイカータイプで中に網目フィルターを挟む。これで細かい泡が出来る。

 …というか、手入れはクリーン一発でオッケイか。

 まぁ、これでまた少し、食生活が豊かになった。

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