055 サーモン(魔物)マリネ
アルが朝食をしっかり食べていると、ダンたちも起きて降りて来た。
「おーアル、起きてるな。昨日はかなり疲れてたみたいだけど、もう平気?」
「平気。身体は昨日も平気。精神的に疲れたっつーか、火山と砂漠で立て続けに暑かったのがさ」
「25階にもう行ったのかよ」
「でもって、問題にしてるポイントがズレまくってるし。魔物の多さにウンザリはしなかったワケか」
「ん?ダンたち、砂漠まで進んだんだ?」
「途中までな。蟻地獄が厄介過ぎで準備も甘かったから撤退したんだよ。アルはどうやって倒した?」
「魔法で浮かせてざくっと」
「どうやって蟻地獄を見つけた?隠密スキル高過ぎなのに」
「まず、最初にすり鉢状に蟻地獄が出来て来るだろ?その真ん中に虫がいるから、砂の動きに注意していれば、引きずり出すのはそう難しくねぇと思うけど」
「それはアルだからだってっ!ヤツの土魔法レベルが無茶苦茶高くてそう簡単に引きずり出せねーのが大半なんだよ!」
「まぁ、でも、そういった習性があるのは初めて聞いた。参考になりそうだな」
「じゃ、デザートマンティスの習性っつーか、属性は知ってる?」
「知らない。そんなのあったか?」
「ドジっ子属性。他の魔物に
「…誰が得するんだ?」
「さぁ?ドロップもしょぼいしな」
「アル、そうも色々と観察する余裕がよくあったな。日差しも強いし、ジャイアントデザートワームもいきなり出て来るし、で過酷な砂漠なのに」
「結構、何とかなるもんだって。そういや、火山地帯でスゲェ失敗したんだけど、普通はどうやって倒すもの?」
アルは今後の参考のために訊いてみる。
「火属性ばっかだから、水魔法か氷魔法の効果が高いから地道に削って」
「火の耐性があるグローブがないと、剣ではキツイだろうな。って、アル、ヤケドしたのか?」
「いや、でかい魔法って使ったことなかったな、と氷魔法で辺り一面凍り付かせたら、魔物もガッチガチに凍ってドロップにならなくて、結局、火魔法で溶かして二度手間だったんだよ」
「…失敗の規模が全然違うな」
「面倒になったんで楽しようと思ったのは分からないでもないけどな。あそこは地道に倒すしかないフロアだって」
「おう。結局そうした」
そこに、女将がみんなに朝食を持って来る。サーモン(魔物)マリネ付きだ。
「ん?生魚?」
「アル君のお土産よ。摘んでみたけど、すっごく美味しいわ。本当にありがとうね」
「どういたしまして」
「魚ってアル、24階の海フロアのでかいヤツ?」
「全部がでかくて襲いかかって来る魚やエビ?貝ですら体当たりして来る?」
「正におれのためにあるようなフロアだろ」
ダンたちパーティはアルの空間収納を知っている。
容量の制限が今の所、まったくないのも、時間停止なのも。
「居座って狩りまくったんだな…」
「人食い魚って美味いの?」
「そんなこと言ったら、他の肉ドロップだってそうだろ」
「そうそう、それにドロップは別モンだろ。マジで美味い。自分で狩りに行こうかなって思うぞ」
「それはない」
「24階に行くまでも大変だしな」
「…うまっ!本当に美味い!」
「これは…美味過ぎてフォークが止まらんな…」
「パンに挟んでもいいけど、ご飯の上にサーモン載せてダシ醤油かけてってのもかなり美味いぞ。いくらがあれば海鮮親子丼なんだけど」
入ってなかった。
いや、取り出したのはオスだったか。後で筋子が入ってないかどうか確認してみよう。
サーモン丸ごとなのだから、入っていて欲しい。あったならば、メスを狙ってまた狩りに行くまでだ。
「美味そうなメシの話すんなよ~。また行った時につい狙っちまうだろ~」
「いい励みになるだろ」
アルが有料で食べさせてあげてもいいが、やる気は大事だろう。
皆しばらくは、サーモンマリネに舌鼓を打つ。
「で、アルは何階まで行った?…攻略したな?」
言おうかどうしようか、とアルが迷ったのをダンに見透かされた。周囲を気遣って声を落とす。
「あはははは。初めて怪我した。自爆だけど」
「何で自爆だ。…高火力の魔法使って巻き込まれたとか?」
「ほぼ正解。攻撃には巻き込まれてねぇんだけど、想定してなかったスッゲェ大きな音で耳がやられた。防音結界張ればよかったと反省したけど、咄嗟の場合だと中々な~」
「…おいおい、どれだけ高火力の魔法を使ったんだ」
「キマイラ、貴族の屋敷みてぇなでかさで、再生能力もスゲェ高かったんだよ。これは一気に片付けるしかねぇなってことで、特殊な武器の広範囲攻撃と高火力の火魔法と雷十本まとめて撃ち込んだら、とんでもなくでかい音がした、と。天井も崩れてたしな」
「…………何分?」
「五分ぐらい。先手必勝で反撃許さず。ドロップが中々出なくてちょっと焦ったぜ。十五分ぐらい後だった」
「……想定外過ぎたんだろうな、ダンジョンも」
「も、とか言うし。で、そのドロップイマイチだった。ドラゴンゾンビのドロップの方が遥かにいいって」
「いるのか、ドラゴンゾンビ…」
「ん?ギルドの資料にも載ってたけど?」
「見かけた程度だから、見間違えたのかもしれないって話を聞いてたんだ。29階自体、深い森で暗いんだろ?」
「そ。でも、ドラゴンゾンビ、おれにはうるさく主張してたけどなぁ」
アルが殲滅してたから、かもしれないが。
「それでギルマスには黙っておく、で変わらないんだな?」
深く考えるのはやめたらしく、ダンはそう確認を入れた。
「おう。よろしく。二、三日は物作りするけど、その後は近くの街に行ってみようと思ってる。ドロップ品も売りたいしな」
「じゃ、宿を引き払って拠点を移すって…」
「いやいや、拠点は移さねぇよ。ランクアップの件以外は居心地いいし。近くの街にはちょっと行くだけ。飛行魔法も覚えたし、短時間で行き来出来そうだし、で」
「飛行魔法ってさ……何でもありだな」
「やっぱ、称号のせいみてぇだぞ。ようやく、詳しく鑑定出来るようになったんだけどさ」
「そうなると、この所研究していた魔法陣関係は何か増えたのか?」
「まったくなし。成功してるのもあるけど、それも改善の余地ありで他はもっと、な辺りも関係あるんじゃねぇかと。形になってねぇっつーかさ。あ、で詳しい地図って商業ギルドでいいんだよな?」
「ああ。近くの街に行くならって、護衛を頼まれるかもしれないけどな。地図だけでも買えると思うぞ。大事な情報だからちょっと高く、銀貨5枚ぐらいだったかと」
その程度のお値段なら妥当だと思う。
「よし、じゃ、この後行って来よっと」
アルは朝食を終えたその足で朝早くから開いている商業ギルドへ行き、地図を購入した。
ダンの言う通り、護衛を依頼して来たが、すっぱり断る。自分のペースで動きたいし、色々隠すのが面倒なので。
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