054 称号は全力で見えなかったことにした!
もうすぐ日が陰る昼下がりには、さすがにダンジョンへ入る、出る冒険者がそこそこいる。アルはさり気なく紛れて外に出て宿へと帰り、風呂に直行した。
この時間にお湯は入ってないが、自分で入れればいいし、あらかじめ女将にも了解をもらっている。
クリーンで洗うのもやるので宿側は手間なしだ。
「あーさすがに疲れたなぁ」
アルは湯船の中でぐーっと手足を伸ばす。
連戦したことよりも、海風や火山や砂漠の暑さがちょっと。
海フロアはまた行きたい。
身体中に魔力を行き渡らせ、疲労回復にヒールをかける。
ダンジョンボス討伐後は耳にしかヒールしてなかった。
…おお、初めての負傷か!
……自爆だけど!
今日は早目に作り置きのご飯を食べて、さっさと寝よう。
女将さんに起こさないよう言っておけば、ダンたちも無理に起こすまい。まぁ、邪魔されたくないので防音結界を張っておく。
明日はコーヒーミルを作って、焙煎して、海の幸を堪能して、作り置きを作って、たこ焼き器も錬成して、鰹が手に入ったのだから鰹節もチャレンジしたい…何やら忙しいな。
このアリョーシャの街に来て三週間ちょい。
そろそろ違う街に足を伸ばしてみたい。
飛行と転移を組み合わせれば、遠くへ行くのがもっと手軽になる。
目撃されないよう気を付けないとならないが、どうにかして目立たないように出来ないだろうか。
人間サイズの物が飛んでいれば、どうしても目立つが、カメレオンのように周囲に溶け込むように。
……無理か。
探知魔法を駆使してなるべく人と遭遇しないルートを選ぶのが、一番目立たないだろう。
それには地図が必要だが、かなり大雑把な地図しか見てないので、商業ギルドで販売してないかどうか問い合わせてみよう。
行商に行く商人もいるのだから、詳しい地図があるハズだ。
冒険者に護衛を出すのが普通なので、冷たい対応はされない。
アルは風呂から上がると、温風で髪を乾かし、女将さんに夕食はいらない、明日の朝まで起こさないように、と言ってから、自分の部屋に行って寝た。しっかりと結界を張ってから。
ダンジョン産素材で寝心地抜群のベッドと寝具を作り、宿のベッドと取り替えたので、アルの寝付きが悪いなんてことはあり得ず、いい夢見るに決まっていた。
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名前:アル(アルト)
年齢:16歳
状態:良好
職業:冒険者(Cランク)
Level:57
HP:3800/3800
MP:243800/243800
攻撃力:S
防御力:A
魔法防御力:A
素早さ:A
器用さ:A
知力:S
幸運:B
スキル:多言語理解、物理・魔法・状態異常全耐性、魔力自動回復、浮遊魔力利用、剣術、錬金術、鑑定、体術、魔力操作
魔法:生活魔法、空間魔法(収納、転移、
称号:転移者、時には虐殺もする快適生活の追求者、アリョーシャダンジョンソロ攻略者
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「おお~体術、魔力操作、
翌朝。
アルはステータスボードは見たくなかったのだが、
欲しかったスキルも生えていたし、重力魔法と風魔法を組み合わせて使っていたのが、ちゃんと【飛行魔法】となったのも何よりである。効率的な発動と魔力消費になるので。
称号は全力で見えなかったことにした!
しかし、称号の効果は知りたかったので、成長したらしき鑑定で詳しく見てみる。
【転移者…異世界から転移して来た者。経験値倍加、スキル、魔法の覚えがよくなり、イメージ力次第で出来ることも多くなる】
これはだいたい想定していた効果だった。HPMPも元々多かったのだろう。
【アリョーシャダンジョンソロ攻略者…レアドロップ率、隠し部屋遭遇率がよくなる】
それは中々いい効果だ。
20階以降は隠し部屋に遭遇していないので、今までの二回がラッキーだったらしい。
【時には虐殺もする快適生活の追求者…快適生活のためなら手段を選ばない者に贈られる称号。快適生活を邪魔する権力者、利用しようとする者をなるべく遠ざける】
「なるべくかよ~」
望んでいた効果だったが、なるべく、が付かないのなら更によかった。
そして、よく考えなくてもこの条件はウザイギルマスには当てはまらない。
私利私欲からではなく、自分の評判が落ちても、万が一の際、冒険者の命を少しでも救うため、なのだから。その時は勝手に動く、とアルが匂わせてる程度では安心出来ないのだろう。
さて、朝食を食べに行こう。
早寝したおかげで、いつもより早く起きてしまったアルは、時間調整がてらステータスボードを見ていたのだ。
「あら、おはよう。早いわね。よく眠れた?」
食堂のテーブルを拭いていた女将さんが、明るく声をかけて来る。ふくよかな肝っ玉母ちゃんだ。
「たっぷりと。…ああ、女将さん、海フロア行って来たんでお土産」
ものすごく狩りまくったので、この程度は何程でもない。
ダンジョン産だからか、寄生虫はまったくいない大型のサーモンをダミーバッグ経由で空間収納から出す。
「アル君、ちょっと待って待って。大き過ぎよ!もっと少なくていいから!傷むじゃない」
「じゃ、客に出して食べ切れるぐらいにしとくよ。生でも食える魚だから」
切身じゃなく、3mぐらいあるサーモンを丸ごとなので、風魔法で浮かせたまま、三枚に下ろし、柵にしてから半身の八分の一ぐらいを大きな葉っぱに包んで女将さんに渡す。
これでも結構な量だ。残りは再び収納しておいた。
「…すごい魔法使いだったのね」
「魔法も使うけど、どっちかっていうと剣士かな?使い切れなかったら言って。冷凍するから」
「その時はよろしくね。で、どうやって食べたらいいかな?焼く以外に」
「生が抵抗あるんなら、薄くスライスして玉ねぎスライスを載せてドレッシングをかけるマリネ。サラダに載せてもパンに挟んでもいいぞ」
こちらの世界にもマリネはある。
「うん、分かったわ。マリネにしてみましょ」
そうして、今日の朝食は一品増えた。
「まぁ!美味しい魚ねぇ!さすが、ダンジョン産」
味見をした女将が喜んでいた。
苦笑混じりに女将の旦那、料理人の大将が言う。
「おいおいアル君、いいのかい?これ、多分、高級魚だろ。ダンジョンの海の魚はどれも大き過ぎて持ち帰るのが難しいって聞くけど」
それはそうかもしれない。
しかも、海フロアは魚介類が積極的に襲って来て数も多い。
せっかく倒してもドロップを拾うのも難しい。
片っ端から殲滅出来て、結界で防ぐことも出来て、空間収納容量の底が見えないアル以外には中々難易度が高いだろう。
…ああ、だから、高級魚なのか。
「気にすんなって。おれにとっては大したことねぇんだから」
事実である。
「じゃ、有り難く甘えとくよ」
冒険者からおすそ分け、というのは宿屋にはよくあることなので、大将もすぐに割り切ったらしい。
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