053 またちょっと失敗!

 27階は再び草原フロア。

 風が気持ちいい春の陽気だった。暑いフロアが続いていたので、尚更、爽やかだ。


 ここでお昼にしよう、と木陰の下に結界を張ってから、テーブルセットを出し、収納から作り置きの料理を出す。

 ハンバーガーとフライドポテト、スモークして炒めたソーセージ、ミネストローネだ。

 我ながら美味しい物しか作らない。自画自賛。


 この草原フロアは今までの草原・森林フロアの総決算、という感じで上位種が続々と出る。

 ドロップのレベルも上がっているが、戦闘につぐ戦闘で拾う余裕がない冒険者も多いため、買取金額も上がっていた。


 しかし、食材狙いのアルとしては、高級食材どころか食材ドロップはあまりない所が不満だった。

 まぁ、これまで散々食材ゲットしているのだが、深層になればなる程、いいものが、と期待してしまうものだろう。


 数少ない食材ドロップはオークの上位種、オークジェネラル、オークキングだ。オークジェネラルが黒豚、オークキングが三ツ星肉で、部位はランダムだった。狙って狩りまくりたい所だが、両方とも指揮官なだけに数は限られてしまう。

 他種族と連携して出て来るのだ!

 ダンジョン外ではあり得ないが、ダンジョンではよくあることだった。


 28階は鉱山フロア。ようやく、金属ドロップである。

 魔物は色んな金属のゴーレムで、人形もいれば、動物型もいる。

 魔法耐性が高く、物理攻撃で倒すしかないが、素早く動くゴーレムはいないので、一種のボーナスフロアだった。鍛錬や試し切りにももってこいかもしれない。


 29階は鬱蒼とした深い森フロアで、アンデッドゾーンだった。

 前にあった階層と違い、これまた上位種で、マミー(ミイラ男)、リッチ、デュラハン、ドラゴンゾンビまで出る。

 まぁ、全部倒す必要はないのだが、ドロップが宝石や貴金属ばかりなので頑張りましょう。

 アンデッドによく効くのは聖魔法と回復魔法。

 物理的な身体があれば、火魔法もよく効くが、種族的に魔法耐性が高いドラゴンゾンビは除外。


 こうなると、新しい魔法を試さねばなるまい。

 異世界物でよくある『次元斬じげんざん』を。

 空間魔法が使えるなら使えるハズだ。

 次元で斬る、ということで、骸骨の顔のリッチの首と身体を別々の次元で包み、ズラす。

 …うぉっ、面倒臭い。

 一応成功したが、こうじゃなく……あ、そっか。


 アルは思い付いて、近寄って来たキングスケルトンの“”を指定して1m程ズラした所に転移。

 ズバッとキレイに首の所で斬れて絶命した。

 …いや、最初から生きてないか。まぁ、倒せてドロップ品が出た。

 こちらの方が魔力消費がかなり少なく、さくっとタイムロスなく斬れる。よし、これを『次元斬じげんざん』としよう。

 次元斬じげんざんは実体がないリッチにも有効で、簡単だった。

 あまりに簡単なのも何かと、実体のある魔物はミスリル刀を使い、ドラゴンゾンビもミスリル刀で切り刻んで倒した。とっくに死んでるだけに、中々しぶとかったのだ。


 燃やし尽くすまで十分もかかったジャイアントワーム程でもなく、五分弱ぐらいだが。

 …一体、ジャイアントワームのランクは何だろう?

 再生力だけ考えるのならSランクでもいいとアルは思う。


 ドラゴンゾンビのドロップはさすがにいいもので、大きな魔石、ドラゴンローブ(防御力+20)、ドラゴングローブ(剛力スキル付与)と三つも出た。

 ソロ討伐だから、というのも関係あるのかもしれない。


 ドラゴングローブが面白そうだったのではめてみると、ピタリとサイズが合った。見かけは普通の革手袋にしか見えなかったが、さすがマジックアイテムだ。

 近くの木を抜いてみようとすると、ハリボテより軽々と抜けた。

 ああ、そうか。パワー手袋と同じか。青猫ロボットの。

 剛力?となってしまったが、なるほど。これは色々と力仕事に役立つグローブだ。大事にしまっておこう。


 29階を下りて30階。ボス部屋前にて休憩した。

 たくさん動いて小腹が減ったので、たくさん作り置きしたサンドイッチを食べる。

 甘い系フルーツサンドもちょっと欲しいかも。今度、作っておこう。


 ******


 さて、ダンジョンボスだ。ダンジョンコアがある辺りにまず結界を張って、と。よし。

 アルは風竜刀を出してから、扉を開けた。

 聞いていた通り、双頭のキマイラ。山羊頭とライオン頭、身体は山羊。尻尾は蛇。どこかの貴族の屋敷ぐらい大きく、相当強い。

 強者の気配がビシバシする。

 これは手加減する方が失礼だな。


 一瞬でそう判断すると、アルは抜刀すると全力で斬撃を放った。

 風竜刀独自のスキル広範囲攻撃【風殺斬】だ。爆撃を受けたような爆風の中、アルは自らの周囲にアクティブ結界を張りつつ、距離を詰め、ドラゴンゾンビと同じく、切り刻んで行く。


 しかし、キマイラも再生能力が高い!

 アルは空を飛び今度は上空から【風殺斬ふうさつざん】を放ち、高火力の青い炎で焼き尽くし、雷も十本まとめて撃ち込んだ。


 ドカーンッ!


 大きな爆発が起き、ダンジョンの天井がガラガラと崩れて来る。

 大き過ぎる音を間近で聴いてしまったアルは、耳がよく聞こえなくなった。

 痺れたような感じで痛みは感じないが、鼓膜が破れたかもしれない、とヒールをかけるとすぐ治った。

 結界を二重にして遮音にするべきだったが、咄嗟には思い付かなかった。この経験は今後に役立てよう。

 さすがのキマイラも力尽きていた…というか、身体がほとんど残っていなかった。


「…え、ドロップは?」


 あまりに高火力の攻撃を叩き込み、天井まで半分ぐらい崩れたせいで、ダンジョンシステムの不具合だろうか。

 ダンジョンコアはしっかりと結界で守ったのに。


 遅れているだけかもしれないので、アルは結界に防臭も追加して自らにクリーンをかけると、風竜刀の手入れをして収納にしまい、テーブルセットを出してお茶することにした。

 気分でアップルティー、お茶菓子は絞り出しクッキーで。


 キマイラを倒すまでにかかった時間は約五分。

 手こずったジャイアントワームの経験を活かし、攻撃をさせず、高火力攻撃で一気にカタを付けたため、時間短縮になったワケだ。

 これでダメなら次元斬じげんざんを使っていたので、結構な強敵だったと言える。


 リポップ待ちして鍛錬に来よう。

 このダンジョンはとっくに攻略済ということは、こうも手強いキマイラを討伐したパーティがいる、ということで…記録が残っているのならどう戦ったのか知りたい。

 半端ない再生能力にどう対処したのか。特殊なスキル持ちがいたのだろうか。

 …って、アルが攻略したことは言えないのだった。ギルマスがウザイので。


 話を聞き出すのが上手いダンに調べてもらおう。

 そんなことを考えながら、アルがキマイラの無惨な残骸を見ていると、十五分ぐらい経った頃だろうか。

 やがて淡く光り出し、ドロップ品に変わった。

 大きい魔石と、横70cm×奥行き45cm×高さ30cmぐらいの宝石が付いたキラキラした金属の宝箱だ。

 結界を解除し、鑑定で罠がないのを確認してから、宝箱を開ける。


 中にはミスリルの丸盾、身代わり人形、三日月の短弓の三つ。

 盾も弓も使わなさそうだが、素材としては何かに使えるか。身代わり人形はどう見ても藁人形に見える。


【身代わり人形・身に着けていれば、致命傷の攻撃を受けた時、身代わりになってくれる】


 ……身に着けていれば、って。こんな藁人形を、か?

 マジックバッグの中や空間収納の中では意味がないのだろう。

 この効果が確かなら、高額で売れるだろうから、どこかで売るか。

 時間がかかったのはソロでの討伐を想定してなかっただけか?と少し期待していた分だけ拍子抜けのドロップ品だった。


 ドラゴンゾンビの方こそ、ダンジョンボスドロップにふさわしかったかもしれない。正に腐ってもドラゴンだし!


 小部屋へ続く扉が出て来たので、アルはドロップ品とお茶セットを片付けると、小部屋へと行き、その転移魔法陣に乗って1階に転移した。

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