006 どこにでも変態はいる…

「ところで空間魔法って収納以外はどんなの?一瞬で場所を移動出来る転移魔法が使えたり?」


「それは魔力量と熟練度にもよるんじゃないか。転移魔法が使えたら宮廷魔法使いになれると思うぞ」


「使える人もいるってことか」


 アルの現在の魔力量も多いようだが、転移魔法を使える程には多くなさそうだ。

 魔法を使って行くうちに魔力量は増えるそうだが、レベルを上げても同じくだそうなので、転移魔法は後の楽しみにしておこう。


「使える人って伝説級の大魔導士しかいないぞ~」


「ども、おひさ~。ねぇねぇ、ボルグ君、その子、新人さんなの?」


 そこに、二十歳ぐらいの明るい姉ちゃんといったボルグの知り合いらしき女性が声をかけて来た。

 肩までのクセのある茶髪、革鎧、ズボン、膝丈ブーツ、腰のベルトには短剣、皮袋といった典型的冒険者ファッションだが、シャツは女性らしく少し刺繍が入ったものだった。

 よく見れば、年の頃はボルグより少し上、二十代半ば辺りだろう。薄く化粧をしているが、元々パーツが大きいので派手に見える。

 まぁ、そこそこ美人と言ってもいいかもしれないが……。


「ああ、サーラさん。お久しぶりっす。こいつはパーティに入った新人ってワケじゃないっすよ。さっきまでの依頼で一緒になっただけっす」


 サーラはボルグにとって先輩冒険者、という感じらしい。


「へーそうなの?若いっていいわねぇ。お肌すべすべで…あ、ごめん。気安くて」


 アルと目が合った途端、サーラがすっとアルの頭に手を伸ばして来たので、アルは咄嗟に手で払う。

 その舐めるような視線は覚えがありまくりだった。不本意ながら。


「おいおい、こう見えても成人してる年齢なんだ。扱いには気を付けてやってくれ」


 ダンがそうフォローしてくれるが……。


「可愛がられる趣味なんざねぇから」


 アルは前もってきっちりと断っておく。

 アルの自意識過剰じゃないのは、サーラが余裕をかましてゆっくりにっこり笑ったのがその証拠だろう。


「カンのいい坊やね。君、モテるでしょ?」


「え、アルのモテ要素ってどこっすか?結構、どこにでもいる小僧じゃ…」


「立ち居振る舞いがキレイなのと、目ね。強い意志を持ってる人の目。キレイな猫っぽい所も。何か外見と中身がちぐはぐなのも気になった理由かな」


 鋭い。サーラは魔法も使う斥候職のようなので、観察は得意なのだろう。


「ふーん?そんなもんですかね~」


 サーラはボルグに任せて、アルはもう少し食べようと店員を呼び止めて、ランチセット以外は何かないか聞くと、腸詰めがあったのでそれを頼んだ。

 この世界ではメニューはなく、その時食べられるものを訊く形式だった。お高い食堂では違うかもしれないが。

 サーラも飲み物を注文しつつ、さり気なくアルの隣に座ろうとするので、アルはさっさと立ち、ダンとボルグの間に椅子を持って移動した。


「そこまで避けなくてもいいじゃないの~」


「少年にセクハラする常習犯だろうが」


「すっげぇ。何で分かる?」


 かつては被害者だったと思しきボルグが感心した。

 使ってから『セクハラ』が通じないかと思ったが、適当に意訳されているらしい。


「散々、フラチな老若男女を叩きのめして来た者のカン」


「苦労して来たんだなぁ…」


 今現在も苦労しているのはどうしたことか。

 平凡な容姿のアルトなのに、中身が派手で目立つからなのか。


「それより、食った後、時間があるならちょっと模擬戦しねぇ?冒険者なら訓練場を使ってもいいって聞いたし」


 アルはそう誘ってみた。先程、並んでいた時に知った情報だ。

 旅先では仕方なかったが、戦闘力把握は早めにしておきたい。

 まだ時間が早いので、模擬戦の後でも宿を取ったり、必要な物を補充したりするのは十分に間に合うだろう。


「ステータス見た後じゃ、尚更、かなう気がしないんだけど~」


 アルが盗賊たちをあっさり倒したのを見ていたからか、ボルグは嫌がった。


「攻撃スキルもねぇし、剣を使うのはど素人だぜ?」


 訓練なら木剣だろう。

 アルトの戦闘スタイルはショートソードだったが、アルには使い勝手がよくなかったので、盗賊が使っていた長剣をもらっていた。食事前までは二本が交差するように鞘を固定して腰の後ろに革紐で吊るしてあった。座る時は邪魔なので今は椅子に立てかけてある。

 バランスが悪いので交差してあるワケで、いらないショートソードを売ってしまえばいいが、予備の武器は必要なのでこうなった。


 …そうか。空間収納にしまえばいいのか。

 使えるようになって二十数分程度しか経ってないので忘れていた。ここは人目に付くので後でしまっておこう。


「アルならすぐスキルが生えそうだけど…ああ、それも含めてか」


 鍛錬でもスキルは生えるそうなので、その実地見分もあった。


「そ。木刀ならある程度振れるけど、こっちはソードだし、単なる棒の方が使い勝手はいいかも」


「ぼくとーって?」


 通じなかったか。


「木で出来た刀。刀ってのは片刃のよく斬れる武器で、この辺にあるかどうかは知らねぇ」


「何か変わった武器は時々見かけるぞ。後で武器屋を見に行くといい」


 本身があった所でアルには使えないが、どういった武器があってどのぐらいの値段で売っているのか見るのは、かなり勉強になるだろう。


「そうだな」


「あら、アル君、強いんだ?じゃ、もし、わたしが…」


「勝負も賭け事もしない」


 アルは言葉を遮ってさくっと断った。魔法のある世界なので、油断なんか絶対しない。


「……っく、つれない所がまた…」


「ボルグ、この変態女始末して来て」


「おいおい、アルもちょっと落ち着いて…」


「気持ち悪ぃだろ?」


「気持ち悪いけどさぁ。一応、世話になったこともある先輩なんだよ…」


 ボルグも結構言う。


「放っておいて場所を移動しようぜ」


 建設的な提案をダンがしたので、アルとボルグとダンは他の護衛も誘い、食事の支払いをしてから、訓練場へと向かった。後をついて来る女は見なかったことにする。


――――――――――――――――――――――――――――――

関連話「番外編05 変態になるには理由がある」更新!

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330658940688256

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る