第2章・駆け出し冒険者
005 一流戦士並み?
朝、朝食を食べてから旅立ち、半日かけて進むと昼過ぎには目的のアリョーシャの街に到着した。
この世界には魔物も盗賊もうろついているので、どの街も高い防壁で囲まれており、街に入るには身分証明を見せて入街審査を受けてから入る。
身分証明がない人は入街料を払って入ることになるが、何度も街を出入りする大半の人は商業ギルドか冒険者ギルドに登録して身分証明をすぐ作っていた。
近くの森に薬草や木の実や果実を採取、川で魚釣りというのは普通の平民でもやっていることだった。近くなら冒険者が見回ってるので、さほど危険はないらしい。
建物の様式は中世ヨーロッパといった所か。土台や腰壁は石で木材もふんだんに使われており、漆喰と思しき壁材も使われ、質はあまりよくないもののガラス窓も使われていた。
これは大通り沿いは儲かってる商会の店、裕福な家が多いからだそうだ。道は石畳と土を固めたもので、これは土魔法で作られるもので、重い荷馬車が何度行き来しても大丈夫な程の強度はないのでたびたび補修するらしい。
都市計画をして整然とした街並み、とは行かず、ごちゃっとしている所が多いが、さほど不潔でもなく嫌な臭いもせず、活気があった。
門にある警備隊の詰め所に盗賊たちを引き渡し、事情聴取は後回しにして依頼票に護衛依頼完了のサインをもらった護衛たちは、商人一行と別れ、冒険者ギルドへ向かう。
石造りの重厚な建物だったが、木の扉は何度か補修された跡が涙ぐましかった。
…つまり、乱暴な人間が多いということだ。
護衛たちのリーダーはダンのパーティのリーダー…三十前後のグロリアが代表して依頼達成報酬を受け取り、それぞれに分けた。盗賊捕縛の報奨金はまだ査定されてないので後払いになる、とダンが説明してくれる。
「ああ、アル。一応、ステータスを見せてもらえよ。あっちの受付で言えば見せてくれるから」
「分かった」
ステータス関係は聞いてなかったな、と思いつつ、アルはダンが指差した年若い人たちが並ぶ受付に並んだ。どうやら、冒険者登録やステータス表示、他書類関係の受付らしい。
ダンたちは併設されている食堂兼酒場の方で先に食事で、後から来い、と言われた。面倒見がいい。
異世界もの典型テンプレのように他の冒険者に絡まれることなく、
「君も登録?…え、もう冒険者なんだ。どんな依頼こなしたの?」
といったような世間話程度だった。
アルトがどんな依頼をこなしたのか、全然知らないアルは、適当に誤魔化しておく。
そして、程なくアルの番になり、半透明の石板に手を置いてステータスを表示してもらった。
石板自体にステータスが表示されるのではなく、石板の隣の半透明な下敷きみたいなのに表示されていた。覗き込まない限り、自分と受付担当の人しか見えない仕様だ。
「…転移者?」
「あ、空間魔法がある!でも、どうやって使うんだ?」
魔法の欄に【生活魔法】【空間魔法】とあった。
生活魔法はだいたいの人が持っているという話は聞いているし、アルトも持っていたのでアルも気軽に試して、問題なく発動するのは確かめていた。
同じ要領で空間魔法を使うのも「収納」と念じればいいんだろうか、と思った瞬間、手を載せたままだった半透明の石版が消えた。そして、何となく収納してある物が分かる。
【ステータス石版(ギルド仕様)】と。
「お、成功。出せなかったらごめん…あ、大丈夫だな」
取り出すイメージをしたらすぐに元の位置に出たのでホッとしたアルだが、受付嬢はそんなこと気にしてなかった。
「あの~あの~転移者って出てるんですが、どうしてか分かりますか?」
「転移者?…あ、称号の所か。さぁ?そんなことより、空間収納の容量ってどうやって調べればいい?」
「ええっと、魔力に依存するという話は聞きますが、使える人が少なくて具体的な容量はちょっと分かりませんね。色々入れてみて試すしかないのかもしれません」
「そっか。じゃ、このステータス紙に写せる?手書きで書いてもいいけど、あれ、プリンター…専用の機械…じゃねぇ、魔道具っぽいけど」
依頼完了書類が書式が整った印刷した物っぽかったし、受付嬢側に印字する機械っぽい物があったので、アルは用途がすぐ分かった。
「あ、はい、そうです。銅貨1枚になりますが、よろしいですか?」
「じゃ、これで」
報酬をもらった所なのでアルは銅貨を1枚をカウンターに置いた。
ダンから色んな物の相場を聞いたので、日本円換算だと銅貨1枚120円ぐらいだ。紙はまだまだ貴重だそうなので妥当な所だろう。
平民が使うのは鉄貨、銅貨(鉄貨10枚)、銀貨(銅貨10枚)、金貨(銀貨10枚)。時々大きな買い物をする時でも金貨をまとめた麻袋だった。
貨幣の単位も特になく、受付嬢が言った通り、どこでも「銅貨○枚ね」といった感じだ。馴染みが薄い20ドル札みたいなものがないのは助かる。
じゃ、ありがとう、とステータスが表示された紙をもらい、アルはダンたちの所へと行く。
美味そうな串焼き肉とナンのような薄いパンを食べていた。ちゃんとスープもある。
「お、美味そう。おれも同じの…って、昼のセットか何か?」
周囲を見回しても同じセットばかり、となると。
「そ。今日は魚のスープだってさ。平気?」
「望む所」
店員さんを呼び止めてアルが頼むと、そう待つ程なくセットメニューが届いた。
アルは手を合わせてから食事を始める。
串焼きは塩味だけじゃなく、フルーツや野菜を使った少し甘いソースで、魚のスープは柑橘系が使ってあって、どちらも美味だった。こういった手をかけた料理もあるんじゃないか、とアルはちょっとホッとする。
「で、どうだった?ステータス」
「空間魔法があった!」
ほれ、とステータス用紙をダンに渡した。
「へぇ、それは珍しい。…おお、何だ、このステータス。一流戦士並みじゃないか」
アルには数値の基準が分からないのでプリントアウトしてもらったのだが、正解だったらしい。
「え、本当に?…うわーすっげー数字が並んでる…」
「称号の所って何て書いてあるんだ?読めないんだけど」
「転移者、だな。違う世界から意識だけ移った、という証拠…いや、待てよ?外見はアルトだからアルトの身体だとばかり思ってたが、外見を真似ただけで違うのかも。腹の傷もなくなってるし、ステータスも段違いになってるし」
ダンがそんな可能性を挙げる。
「確かにその可能性はあるかもだけど、服や持ち物もまったく同じにする理由が分からねぇな。ステータスはおれのもので、ステータス自体意識っつーか、魂に付随しているものってことか?」
「なーんか、小難しいこと言ってるよなぁ、お前らって。ダンは意外と理屈っぽいのは知ってるけど、アルトも…アルトじゃないのか。アル?もさ」
ダンに学があるのは生まれのおかげだろう。
貴族でも庶子や三男以降なら冒険者になるのもよくある話だし、情報を仕入れにくい一般的な平民にしては色んな知識があり過ぎだった。
「ああ、おれもよく理屈っぽいって言われてたよ。で、このステータスってレベルが上がるとやっぱり変わるもの?」
レベルは20だった。年齢の割には低いのか高いのかすらも分からない。
「ああ。経験値だけじゃなく、スキルや称号によっても補正がかかるんだ。技術や経験も大きいからステータスが絶対というわけでもないが、目安としてアルのこのステータスならAランク冒険者でも不思議じゃない」
「その目安もよく分からねぇんだけど。Aランクだとソロでドラゴンが倒せるレベル?」
「いやいやいや、どんなレベルだよ、それ~」
「ソロなら雷系魔法をガンガン使って来るサイクロプスが倒せるぐらい?Bランクパーティが倒したって聞いたことあるし」
「おいおい、ソロならAランクでも無理だろ。最近じゃAランクパーティがオークの集落潰して、オークキングも討伐したんじゃなかったっけ」
「それもパーティで、だろ。うーん、案外、高ランクでソロで活動してる人ってあまりいないよな」
「噂で聞かないだけかもしれないけどな」
そんなものらしい。
レベルのことを訊いてみると、十六歳ならレベル20は高い方という程度だが、ステータスの数値がかなり高いので、レベルは上がり難いかもしれない、と言われた。
こまめにチェックしてないとその辺りは分かり難いものだろう。
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