004 月がない!

 生活についての知識をダンに色々教えてもらってるうちに日が傾いて来て、街道沿いに設置されている休憩スペースに到着し、ひらけた広場で野営になった。

 こちらの知識が不足しているアルは枯れ枝集めを任されたが、すぐに終わってしまったので食材を切ってスープを煮込むのも担当した。


 根菜葉野菜肉関係なくぽいぽい鍋に入れて水を注いで煮る、と説明を受けたが、それではパサパサで生臭くなってしまうので、アルは肉は下処理して筋を切って炒めてから煮る、根菜は水から煮て、火が通り易い葉野菜は後から煮る、とひと手間かける。まぁ、料理の基本だが。

 それだけでもかなり味が違ったらしく絶賛された。味付けは塩しかなかったが、野菜をじっくり煮込んだのがよかったらしい。


 突然、中身が変わった上、かなり腕の立つアルにダン以外の護衛たちは警戒していたが、美味しいものの前では徐々に打ち解けて来る。商人たちは前のアルトは挨拶で顔を合わせた程度なので、そんなものかと思っているようだ。


 旅の途中なのに保存食じゃなく、生肉生野菜があるのは、意外と手広くやっている商人で時間停止のマジックバッグを持っていて、盗賊を討伐、捕縛した褒美で食材を提供してくれたからだ。

 他の荷物も馬車に積んであるのは大した容量がないからだが、時間停止のマジックバッグ自体がレアなので結構儲けているらしい。


 異世界もので必ずと言っていい程出て来るマジックバッグ、アイテムボックス、インベントリ、異空間収納といったものが本当にある、と聞いてアルは少しテンションが上がった。

 マジックバッグは汎用型で時間停止じゃない容量を拡大してあるものは人工的に作った魔道具で庶民には高額だが、ダンジョンで手に入ることもあるので、持っている冒険者も多いらしい。

 出回っている時間停止のマジックバッグのほとんどはダンジョン産で、魔道具師も開発しているが、その代わり容量が少なくなるようだ。

 つまり、この商人が持っているのは魔道具師製だった。


 「あったら便利だよな~」とアルは自分の持ち物を念のため、確認してみたが、マジックバッグなんて持っていなかった。

 腹の傷がいつの間にか治ってるように、持ち物にも変化が、ということはなかったらしい。

 堅焼きパンを具の少ないスープに浸した夕食を終えた後、護衛は交代で見張りに立って夜を過ごした。


 くっきり見える明るい綺麗な星空が……星座が元の世界とはまったく違っていた。

 しかも、この世界の『月』は何百年か前に破壊されたのか、墜落したのか、軌道を外れたのか、いつの間にかなくなっていたらしい。

 『一ヶ月』『六月』といった言葉が残っているのは、その名残だとか。

 干潮や引力に影響は…いや、魔法世界なので違う法則なのかもしれない。


 魔法もカラフルな見覚えのない植物や野菜も見たので、異世界なのはもう分かっていたのだが、どこかの外国かリアルな夢かも、とアルは少しは思っていたのかもしれない。


 ここは地球じゃない。

 太陽系ですらないどこかの星というのは結構…いや、かなりショックだった。

 実は異世界ではなく、同じ世界で遠い遠い星にいる可能性が出て来たからだ。


 アルが元の世界に帰るにはロケットが必要なのだろうか?

 こんな中世のような世界にロケットなんてあるワケがないし、更にワープ航法も開発しなければ…いや、悠長に宇宙旅行なんてしていたら、浦島太郎どころじゃなく、地球の生き物自体、死に絶えていそうなのだが……。


 アルの寿命も時間的問題も魔法でどうにかなるものだろうか?

 もし、実は元いた同じ世界のかなり遠い星にいる、異世界やパラレルワールド、時間軸がズレてる場合でも、無数にある中で、どれがアルが元いた世界で時間なのか、どうやって判断すればいいのか……。


 ともかく、情報だ。情報を集めないことには推測すら立てられない。

 金を稼いで生活して情報を集める。

 今はそれしか出来ないのだけは確かだった。

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