003 すぐ死ぬことはなさそう

 スキルについては、内面に集中するというのがどうやるか分からないので、インターネットで検索をかけるかのように自分に対して「スキル 特殊能力」と検索してみた所、検索出来た。


【多言語理解、物理・魔法・状態異常全耐性】


「おぉ、中々チート」


「ちーとって?」


「飛び抜けて優秀。【多言語理解、物理・魔法・状態異常全耐性】ってスキルだったから」


「……はぁ?そんなスキルがあったのか?耐性持ちは時々いるけど、全部って聞いたことないし、たげんごって?」


「たくさんの言葉。遠くの国の言葉はこの辺と違ったりしねぇ?」


「ああ、それはあるが、それで?」


「勉強しなくても理解出来るっていうスキルだろうな。元の世界とここの言葉は全然違うのに、分かるし話せる所からして」


「それは結構便利だな」


「全耐性はどんな攻撃をくらってもダメージが少ないっていう感じ?」


「そうだと思う。で、攻撃系のスキルは?剣術とか槍術とか弓術とか」


「他になし。でも、全耐性があって少しでもダメージを与える攻撃力があれば、負けることはまずないだろ。だから、チート」


 攻撃力が低いのなら長期戦になるだろうが、負けることはないハズだ。元の世界のような運動神経じゃなくても。

 『中々チート』という評価は、異世界転生の創作物だと、もっと派手なスキルや魔法を女神や神にもらっているからだ。

 …そういえば、そんな記憶もない。


「でも、強い魔物相手だと厳しくなると思うぞ。『耐性』であって『無効』じゃないし」


「魔物がいるんだ。強いって言うとグリフォンとかドラゴンとか?」


「……伝説級の魔物を挙げるとは思わなかった。お前の世界には…あ、魔力がないなら魔物はいないか。想像で?」


「そう、想像で。見つかってないだけかもしれねぇけど、魔物名の認識が同じならおれのようにこっちに迷い込んで帰ったか、逆におれがいた世界にこっちの人が迷い込んで伝えたという可能性もあるな。グリフォンは鷲の頭と鷲の翼、下半身は獅子の身体で尻尾は蛇で空を飛ぶ、で合ってる?」


 グリフォンの形態も色々と説があるが、アルは一般的なものを挙げてみた。


「尻尾が蛇なのはコカトリスだぞ。でかい雄鶏の魔物。ドラゴンは種類も色々いるが、トカゲにコウモリみたいな翼でかなり大きい最強の魔物?」


「ああ。賢くて人間との意思疎通も出来て、やたらに暴れないドラゴンは神様みたいに崇拝されてたり?」


「少数派だけどな。意思疎通出来ても人間なんか歯牙にもかけずに暴れるドラゴンもいて、そういったのは勇者や英雄に討伐される。伝説だから本当はどうだか知らないけどな」


「勇者も英雄も伝説?職業?」


「職業って何だ。功績をたたえて英雄と呼ばれるんだろ。勇者は国が認めてるらしいけどな。ああ、だから、ある意味役職みたいなものか」


「そうなのか」


 勇者や英雄は伝説なので今はいない、ということだろう。


「ところで、アル、この依頼が終わったらどうするつもりだ?アルトの姿だからこのまま冒険者を続けるのか?」


「ああ。中身は違うって言っても中々信じられねぇだろうし、元の身体に戻る方法も分からねぇしな。まずは金を稼いで生活しないと。面倒かけて悪いけど、これからも色々教えてくれ。恩は後でたっぷり返す」


「ほう。そう言えるだけの自信が何かあるのか?」


「ああ。おれの持つ知識はかなり役立つものばかりだからな。たとえば、その肩にかけてる袋。材料と道具があれば、もう少し質がよく使い易い物に変えることが出来る」


 バッグやリュックと呼ぶには小学生が家庭科で初めて作る巾着リュックより出来が悪く、構造自体も悪い。目の粗い麻か何かのズタ袋の口を紐でくくり、適当に肩にかけてるだけだ。

 持っていたリュックが壊れて、応急処置的にしているのかと最初は思ったが、素材や色は違っても護衛も盗賊も揃いも揃ってそんな雑な袋を持っている、となれば、それがこの世界でのスタンダードな荷物袋としか思えない。


「どうやって?魔法で?」


「いや、手作業で。速く作業出来る道具を作ってもいいけど、細かい部品をこの世界の鍛冶屋に作れるかどうかが問題になるし」


 構造が分かるので足踏みミシンなら作れるだろう。


「…は?そういった技師なのか?」


「違うけど、手先が器用な方なんだよ。料理も得意だけど、この世界の食材知識がねぇんで試し試しになるけどな。魔物って食える?」


「食える種類と食えない種類、食えない部位や状態と様々だ。料理人でもないようだが、何の職業…あ、本当の年もいくつなんだ?」


「二十四歳、だったと思う」


「…なんだ、おれより一つ上だったのか。道理で何か話し易いと思った」


「って、ダン、まだ二十三歳なのか。落ち着いてるからもう少し上かと思ってた。あ、ちなみにアルトはいくつ?」


「十六歳だ。もう少し若者っぽくしないと怪しまれそうだな」


「難しいこと言うし。で、元の職業は…えーと、何だっけな?書類とか数字とかに囲まれてた覚えしかねぇ」


「じゃ、商家の人間か文官か?」


「その辺、記憶が曖昧。肉体労働じゃなかったことは確か。家族は…って、うわーおれ、超可愛い奥さんがいるぞ。あっちの世界の時間が大して進んでないうちに帰れるかなぁ…」


 絶望してもおかしくない状況なのに、少し焦る程度で済んでるのは記憶が曖昧だからだろう。

 それに、本当に意識だけの転移なら、自分の身体は妻の側にあるハズだし、あちらとこちらの時間の進み方が一緒だとは限らないのだ。


「進んでない?何で分かる?」


「何となく。こういった話の定番だし。あ、一日の時間はそう変わらねぇ?」


 あっちの世界では二十四時間で、丸一日を二十四時間で区切って…とアルはダンに説明した所、こちらの世界の時間も一日の時間の表示も一緒だった。まぁ、地球と同じような大きさと自転周期だったとするなら。

 一年は公転周期がズレてるらしく、少し短い三百六十日。三十日十二ヶ月であちらの世界と同じ数字呼びで問題ない。

 今は六月だ。

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