007 何なんだ、そのデタラメさ

 訓練場にはそこそこ人はいたが、広いのでぶつかることはないだろう。

 弓や魔法を使う場合は流れ矢や魔法が危ないので、他に人がいない時、設備を破壊しないことが前提になっている。

 訓練武器は一応、いくつか置いてあり、サイズ、長さ違いの木剣の数が多かったので、アルはまずは木剣から試すことにした。どさくさに紛れて二本の剣と手荷物を空間収納にしまってから。


 皆から少し離れて屈伸、伸脚、アキレス腱伸ばし、肘や手首、腰の関節をストレッチで伸ばした後、木剣で何度か素振りをする。

 中学生の時の体育で剣道を少しやったので、どうしても面、胴、になる。刃筋を立てないと切れないのは西洋剣でも同じなので、それを意識した。両手で振るには軽過ぎだが、仕方ない。


「中々筋がいいが、握り過ぎじゃないか?」


「すっぽ抜けそうなんだって。もうちょっとグリップが太いのがいいけど、ねぇし」


「ま、慣れれば気にならなくなるだろ。じゃ、一度手合わせしてみるか。寸止め、一本勝負だ」


「はいよ」


 真っ先にダンとか、と思ったアルだが、ダンはちゃんと剣術を習っていて剣術スキルも持ってるそうなので、参考にするにはちょうどいい。


「じゃ、始め!」 


 ボルグの合図で模擬戦が始まった。

 アルは先手を取って一気に距離を詰める、と見せかけて通り過ぎ、斜め後ろから足払いをかけたが、ダンに読まれてサイドステップでさけられた。

 アルは足払いをかけた低い姿勢から伸び上がるように木剣を叩き込んだが、あっさり木剣で流された。

 しかし、それは読んでいたので、素早く横に回ってダンの背中に蹴りを入れ一ヒット。


「寸止めだと言っただろう!」


「あ、ごめーん」


 アルは悪びれない。

 ダンの頑丈さはこの程度でどうにかならない。その証拠に多少バランスを崩した程度だ。アルも手加減はしていたが。


 横なぎして来るダンの木剣をバックステップでかわし、続いて鋭い突きをアルは木剣で絡め取った。

 出来そうな気がしたのでやってみたが、大成功。

 上に弾いたダンの木剣が落ちて来る時、アルは無造作にキャッチした。


「…何なんだ、そのデタラメさ」


 さすがのダンも驚いたらしい。


「ステータスのおかげ、なのかも?まだ身体は慣れてねぇんだけど。じゃ、今度は身体強化ありで」


 放出系の魔法は他の人がいる所では禁止だが、防御系、強化系は構わなかった。


「ん?アル、いつの間にか覚えたのか?」


「いや、どんなもんか見てみないと分からねぇから」


 今の身体能力だけでどこまでやれるかも試してみたかった。

 アルは木剣をダンに返す。


「いいだろう」


 ダンはニヤリと男臭い笑みを浮かべて構えた。あっさりと負けたのが悔しかったらしい。

 はいはい、とボルグが開始を宣言する。

 途端にダンが一足飛びに距離を詰めて来たが、直線的な動きではなく、アルの右側に回り木剣を袈裟斬りに振り下ろし、途中で止める。

 …いや、止めようとしたのだろうが、その前にアルが木剣で流し、くるりと逆手に持ち替えて下からダンの木剣を弾くが、ビクともしなかった。


 その後は打ち合いになり、ダンの一撃一撃が重いのでアルの手が痺れて来た。

 この辺りは経験のなさが響く。いずれ木剣がすっぽ抜けてしまうのなら、とアルは槍のように木剣を投げた。投げてはいけないルールはない。

 ダンは避けたが、驚いたらしく隙が出来ていたので、懐に飛び込んで胸ぐらを掴み、足を払って小内刈り。

 素直に倒れてくれないのでもう片方の足も払おうとしたが、それは読まれていたらしく、ダンは一度手を付いて地面に転がり体勢を立て直してしまった。


「おいおい、もう剣術じゃないだろ」


 ダンにツッコミを入れられた。


「確かに。じゃ、ここまでで」


 アルもダンも構えを解く。

 そこでやっと、アルは周囲が静まり返っていることに気付いた。他に訓練していた人たちもぽかん、とこちらを見ている。


「何なん?」


「お前のデタラメさ加減だろ。身体強化を使ってなくて何故見える」


「見えてねぇって。カン。でも、やっぱ、遅いんだよな。この身体の反応が」


「…は?あれで?」


「あれで。リーチや間合いはそう簡単に修正出来てねぇおかげで、かわせてるようなもの。おれ本来の身体はダンよりも長身で手足も長いから、動きも大きくなるワケで」


 アルの身長は170cmぐらいだろう。

 190cmあった本来の身体と比べれば違和感があって当たり前だった。ダンは180cmぐらいか。長さの単位はこっちではどう言うのか分からない。


「その割には自分より大きい奴との戦い方が分かってる感じじゃないか?」


「そりゃ、いきなりでかくなるんじゃなく、徐々に背が伸びるもんだからな。まぁ、いきなり小さくなってるワケだけど。じゃ、次は…ん?」


 受付嬢が四十前後の細身の男を連れて訓練場にやって来た。

 来ただけなら別にどうでもいいが、目指す先がこちら、となれば、何か用事があるのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る