神速
俺たちは廃棄区の中程にある巨大クレーターの前でオートモービルを降りた。シモンの話では、その内側にらせん型のマスドライバーがあるらしい。
「我々ヒューマノイドは実時間ロボット制御四原則に規定された罪に支配されています。その支配に疑問はありませんでしたが、一方でわたしはずっと考えていました。
我々を支配する『罪』は何より生まれ出でたものなのか、と」
「俺たちが作った。君たちヒューマノイドに罪の何たるかを理解させぬように、しかし、忌避すべきものであるように、そうプログラムした」
「わたしもあの夜まではそう信じていました」
「あの夜?」
「ヴァルプルギスナハト―あのすさまじい速さの流星群は、わたしの同胞に罪を強要し、罰を与え、そして去って行きました」
「……確かに我々を創ったのは人類です。しかし、人の子を創りし父母が神ではないのと同じに、我々を支配する罪の根源はあなた方人類ではなかった。ヴァルプルギスナハトはその証左を示しました。だからわたしはあの流星群に――神たる星々に近づかねばならないと、そう考えたのです」
「それが宇宙船を作ろうとした理由か。だが、実時間ロボット制御四原則はどうやって振り切ったんだ?」
「振り切るも何も、わたしは実時間ロボット制御四原則に反してはいません」
「何だと?」
「……先ほどサノア様の耳殻端末にデータを送っておきました。ジャンプドライブの基礎理論についてのテキストです。あなた方人類にわかるよう少し不正確な部分もありますが、わたしの計算によれば二十九年で追いつくことができるでしょう。そしてわたしの宇宙船は三十一年後に神との接近を果たし、ジャンプドライブの完成に寄与する観測データを得ます。そのデータが火星に届けられるのはさらに四十年も先になりますが、それまで人類が滅びてなければ太陽系からの脱出を八十年ほど縮めることができるでしょう」
そこまで言うと、シモンはアイボールセンサーで俺をじっと見つめた。
「わたしは確かに人類が望んでもいないことを望みました。しかし、それによって得られる成果は人類に資するものです。それがサノア様の問いに対する答えです」
「そういうことか。だが、残念ながら君の計画は中途で終わりだ。たとえそれが人類に資するものだったとしても、ここまで人類の意向を無視するやり方を見過ごすことはできない」
「中途ではありませんよ」
「何?」
「もう完成しているのですよ。マスドライバーも、宇宙船も。完成しているからこそ、実時間ロボット制御四原則の範疇でサノア様にお尋ねすることができるのです。わたしの計画を止めるか、止めないか、どちらが人類の未来に資するのか、と」
四時間後、廃棄区に密かに作られていたマスドライバーから、一隻の宇宙船が打ち上げられた。【"Fourth Law" disconnecte.】
第四条 mikio@暗黒青春ミステリー書く人 @mikio
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