溶けた想い

 このチョコレートを好きな人に。


 私はカバンの中にあるチョコレートが崩れないように優しく持つ。


 そして彼を呼び出した校舎裏で白い息を吐き、かじかんだ手を温める。


「お待たせ」


 彼の声は雪の中に刺さる。


 決して強い言葉ではないけれど彼の芯の強さがにじみ出るような声。


「ううん。こっちこそ呼び出してごめんね」


 私はかじかんだ手で持っていた包みを彼に渡す。


「これ、受け取ってください。私の気持ちです」


 目をつぶって彼の顔を見ないようにした。


 見てしまえば答えが分かってしまうから。


「これ、もしかして本命?」


 彼の声が私に刺さる。


「うん…」


 薄く出る声は雪にかき消されるのでないかと思ってしまった。


「そっか…気持ちは嬉しいんだけど本命はもらえないんだ」


 分かっていた。それでも少しの期待を込めて。


 これを受け取ってもらえれば何かが変わると思って。


 でもそれすら叶わなかった。


 少しの沈黙にも耐えきれず私は口を開く。


「好きな人からもらいたいってことだよね…」


「うん」


 彼の返事は胸に刺さる。


「そっか…貰えるといいね」


 涙が落ちそうになるのを必死でこらえる。一刻も早くその場から離れたくなった私は彼の方を見ないまま荷物を持って走り出した。


 後ろで彼は待ってと声を出すが追いかけては来てくれない。それも当然なんだろう。


 必死でこらえていたはずなのに涙はポロポロと零れていく。


 滲む視界は白くなっていく。


「待てよ!」


 彼の声とは違う聞き慣れた声が私を止める。


「走るなよ。滑って転ぶぞ」


 なんでここに。その言葉は紡がれることは無かったが顔を見れば分かった。


 この人の視線はいつも私に向いていたのだと。

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チョコレートは溶かされて 神木駿 @kamikishun05

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