チョコレートは溶かされて

神木駿

溶ける想い

 先日降った雪が溶けている。


 僕が足を踏み入れると雪解け水はパチャパチャと音を立てる。


 僕の隣りにいる君のカバンの中にラッピングされた包みが見える。


 それを受け取るのは僕以外。


 君が好きな人の元へそれは渡される。


 君は少し緊張した顔をしている。そのうつむき加減な瞳が溶けた雪に映る。


 そのキラキラと反射する瞳が向くのは君の好きな人。


 その瞳を向けられる知らない誰かが羨ましい。


 君は今日、告白するつもりなのだろう。


 数日前からチョコと共に想いを溶かし、固めるときにそれを込める。


 そんな作業をしていた君は僕の想いに気づかない。


 気づけない、それが正しい言い方なのかもしれない。


 君は一方しか見ていないのだから。


 幼い頃、君の視線は僕に向いていた。


 だけどいつの間にか想いは一方通行。


 君の視線を取り戻そうとしたけれど、それは叶わなかった。


 ならせめて君を応援しよう。君が幸せになる方向を探そう。


 そう思ったけれど、君の想いもまた一方通行。


 君が傷つくのは見たくない。でもその想いを諦めるのも君は傷つくのだろう。


 どっち付かずの中途半端さに嫌気が差す。


 君は不意に僕に視線を向ける。


「チョコ作り、手伝ってくれてありがとね」


 君は雪の中に言葉を溶かす。


「いいよ、お礼なんか」


 君のちょっとした仕草がどれだけ僕の心を揺り動かすのか、君は知らないんだろう。


 一瞬でも視線を向けてくれたことが嬉しくて、僕は舞い上がってしまう。


 でもその視線はすぐに別のところに向いてしまう。


 儚げなその一瞬に手を伸ばしたくなる。


 その手が届かないことを知っているのに。


「じゃあ頑張ってな」


 雪に溶かされる前に届くその言葉に君は笑った。

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