プロローグ②
私が皇帝になるに当たって障壁となるのは、先に死んだ皇帝の皇太子…つまり私の従兄弟になるだろう。
従兄弟の名前は『チカ』。
チカが叔父から与えられた所領は首都のすぐ近くの『シジュン』と言う地域、首都のすぐ近くと言うだけあって私の所領であるデカンとは比にならない栄えっぷりだ。
ヤツはとっくに先帝の死の知らせを受け取っているのだろう。
だとすれば、きっと考えることは同じ。
ヤツも帝位を狙っているだろう。
飛脚の言うことを信じるならば、叔父は後継者を定める前に死んでしまったようだ。
ならばチカと私は互角…いや、より豊かな所領を持っていると言う点でチカが優勢か…。
石製の机を囲み、会議を行う家臣達を眺めながら私は一人で今後に思いを馳せていた。
ある程度の予想はしていたが、会議は全くもって思っていた方向に進まない。
はじめに私自身に継承の意思があることは伝えたはずなんだが…。
昔ながらの家臣達は帝位の請求についての話も出してくれているが、大多数を占める地元の家臣がそれを許そうとしない。
彼らからすれば私に対して恩も義理も無い訳だから当然のことではあるかもしれない。
そんなことを考えていたら、在地の家臣の一人が発言した。
「領主様が皇帝の血筋である以上、何か行動を起こさないという選択はあり得ないでしょう」
「継承はしないとしても、帝位に就いたチカ様がどうお思いになるかは予想がつきません」
「下手をすれば、帝国そのものとデカンでの争いにもなり得ます」
「領主様への無礼を承知で申し上げますが、デカンに残された道は領主様の身柄を皇帝となったチカ様に差し出すか、領主様を皇帝まで押し上げるかしか無いのではないかと存じます」
今発言した者は…『リークス』という名だったか。
若く、非常に凛々しい容貌だ。
在地の家臣だったはずだが、その割にはかなり大胆な発言だ。
ざわつきはじめた議場の雰囲気を打ち破ったのは、昔からの家臣のエレグだった。
「領主様を差し出すなど言語道断!であるからして、我らに残された選択肢は一つのみ!」
「今すぐにでも軍を調え都へ向かい、帝位を請求すべきでしょう!」
保守的な在地の官僚もリークスとエレグの発言には少し揺らいだ様だった。
再びリークスが口を開いた。
「私は領主様に皇帝になってほしいわけではございません」
「ただ都の言いなりとなって自らの主人を差し出すということをしたくないだけなのです」
リークスが話し終えた時、私は思わず声を出した。
こんな辺鄙な地にも誇り高い心を持った者が居たとは…。
「素晴らしい。私の野望を別にしてもお前のデカン人としての誇りをヒシヒシと感たぞ」
「気に入った。私が皇帝になった暁には、お前の望む報酬をくれてやる!」
「ありがたき幸せでございます」
リークスは淡々と答えた。
結局、リークスの発言が効いたのか、それ以降の会議は私の思い通りに進められたと言っていい。
「方針が定まった以上、一刻も早く都へ発つべきだろう」
「チカに用意させる時間を与えてはいけない」
私は思うままを発言した。
地理的に考えて、チカが先に都に入城することは必定。
そうなれば、都で基盤を用意させる前に叩くことが最も可能性があると思ったからだ。
だが、私の発言に反論する者がいた。
またしてもリークスであった。
「お言葉ですが、領主様。無闇に攻めれば良いという訳ではないでしょう」
「都には先帝が用意した軍も未だ残っているでしょうし、そこにチカ様の軍が加われば2万は下らない軍勢になるはずです」
「一方の我らは全兵力をかき集めても、1000人にも満たないでしょう」
「そのような大軍を相手取って、少数で攻めに向かうのは単なる無謀です」
これまで気付く機会が無かったが、このリークスとかいう男、とても優秀らしい。
自らのことは当然、敵のことに関しても精通している。
彼の意見を聞こう。
「ふむ、言いたいことはわかった。では、どうすれば少数の我らでチカに打ち勝つことができると思う?」
「各地の貴族達を味方に付けましょう」
「領主様のお父上であるパチーク様に恩義を感じている貴族は少なくないはずです」
「一方で、先帝は偉大なパチーク様のご子息である領主様を無下に扱っていた節があります」
「それについては貴族達も思うことがあるでしょう」
「各地に直接手紙を送り、協力を仰ぎ、その上で都攻めです」
「…うん。良さそうだ。リークスの案を採用しよう」
会議は終了した。
終了してすぐに、私は直筆での手紙を書き始めることにした。
我こそが皇帝 @okanekudasai
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