我こそが皇帝

@okanekudasai

プロローグ①

風の強い、涼しい春の日だ。

今日は大した仕事も無くて、自分の領地を散歩していた。

こうして出歩く時は変に着飾ったりせず、あたかも一般市民と言った風な格好にしている。

この街…『デカン』に初めてやってきた時は、民衆の礼がよく出来ていたので驚いた。

敬われるのは好きだが、今はそう言う気分じゃない。

初めは色々あってこの街が嫌いだったが、今では新しい故郷と言えるほどに気に入っている。

資源や人口は少ないかもしれないが、農民から官僚まで食事に不便することはない。

だが、時々は故郷である都のことを思い出してしまう。

帰れるようになるのは、ずっと先…もしくは一生帰れないか…。

…嫌な気分になって来た。

城に帰ろう。

どちらにせよそろそろ昼時なんだ。


芋、野菜、肉。

これが食事の基本だ。

肉で無く魚が入ることもあるし、芋で無くパンが入ることもあるが、概ねこの通りだ。

今日もご多分に漏れず、芋と肉の昼食。

昼食は家臣の一人である『エレグ』と共に城内で食べる。

身分の違いはあるが、幼い頃からの馴染みで城内で一番信頼している相手かもしれない。

肉つきが良く、見てくれが良いとは言い難いが私と波長が合い、一緒に居て楽しいと思わせてくれる。

そんなエレグと意味もない雑談話に花を咲かせていると、部屋の外がやけに騒がしい。


「ん…なんだか部屋の外が随分騒がしくないか?」


エレグに聞いてみた。


「さあ、何でしょうね。私もとんと見当がつきませんが…」


二人で首を傾げていると、家臣の一人が乱暴に戸を叩いた。


「お食事中失礼します!」


こちらの返答を待つこともなく、戸を開け入室して来たので少し驚いた。


「おい!外で騒ぐ分には構わないが、部屋に入る時くらい静かにできないのか!」


エレグが声を荒げたが、その家臣は怯むことなく話を続けた。


「緊急の知らせでございます!」


「皇帝陛下が崩御あそばされました!」


「なんだって!?」


エレグが即座に反応した。

私には、その言葉を理解するのにしばらく時間が必要だった。


「確かなことなんだろうな!?」


「はい。皇帝の飛脚が知らせを持って参りました。知らせによりますと3日前に…」


「そうだったか…」


私は知らせの細かな内容を聞いた後、家臣を退室させた。

こうして再び、この部屋には私とエレグのみとなった。


「…やっとですね…遂にアイツから取り返すことができるのです」


エレグの言う『アイツ』というのは私の叔父で、皇帝であった男のことだろう。

皇帝は名目上は私の親族であるが、私はアイツを憎んでいる。

アイツの1代前の皇帝は私の父『パチーク』であった。

父上は私が帝位を継ぐようにと遺言を残し、亡くなった。

しかし、あろうことか叔父は遺言を改竄し、あまつさえ私をこんな辺境の田舎に押し込めたのだ。

先程は地元の家臣の手前、驚き、悲しんだかのような振りをしたが、正直に言って私は喜んでいる。


「ああ。これ程のチャンスはもう生涯無いかもしれない」


「この機を逃してはいけない。すぐにでも対策を練ろう」


「今すぐに家臣を集め、会議を開きましょう」


私達は部屋を出て、即座に家臣を集めさせた。

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