高空の警戒機

たんぜべ なた。

ホークアイの日常

「ホテルよりロメオ!

ホテルよりロメオ!」

通信機ラジオが先程からうるさくてしょうがない。


「はい、こちらロメオ!」

呼び出しを放置するわけにもいかず、機長が返答する。


「こちらロメオ。

驚異の特定は出来ていない!

繰り返す。

驚異の特定は出来ていない!

以上!」

機長の返答が終わると、ますます通信機ラジオがやかましくなっていく。


「親分…。」

副操縦士が不安そうに機長を見る。

「分かってる。

今は、後席に任せるしかない。」


離艦直後に飛び込んできたデフコン2の警報アラート

定期訓練のはずが、臨戦態勢に突入し、我々は艦隊の水平線レーダーサイトの更に先を警戒している。

後席のレーダー手達は、食い入るようにレーダーサイトのモニターを眺めている。

僅かな見落としが、機動部隊の生死を分ける。


垂れ流し状態の通信機ラジオから入ってくるのは、大渋滞の飛行甲板フライトデッキから、誰を飛ばすのかという論争だ。

五分前に、対空ミサイルアムラームをガン積みしたFA-18Fライノが、艦隊防空の命を受け離艦している。


相手が戦闘機であれば、F-35C稲妻の登場という事になるが、極超音速ミサイルが相手となると、更なるFA-18Fライノの発艦が望まれる。

いずれにしても、我々が索敵出来ない限りは、判断のしようもない。


我々が警戒を始めて一時間が経過している。

水上、海面下を問わず、索敵網は展開されているが、それらしき敵影は確認されていない。


もうそろそろ交代のE-2Dホークアイが離艦する頃合いだ。

それまでに敵が出現しないことを祈るばかり…


だったのだが、一縷の希望は絶たれてしまった。


「こちら、オスカー!

脅威を確認した!!

方位120!

かなりの速度でホテルに向かっている!

脅威の数は12!

繰り返す。

脅威の数は12!」


僚機の警報アラート通信機ラジオに飛び込んできた。


「ホテルより、早期警戒各機へ。

各機は現状維持にて、任務を続行されたし!」


戦闘指揮所ホテルは臨戦態勢に入り、あのざらっとした砂のような、いやな現実が足音を立てて近づいて来ているようだ。

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高空の警戒機 たんぜべ なた。 @nabedon2022

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