夏野菜な二人

十余一

夏野菜な二人

「トマトちゃん、なに読んでるの?」


 日の当たるぽかぽかした席で本を読んでいたら声をかけられた。めぐちゃんも図書館に来てたんだ。


「花言葉の本を読んでたの。めぐちゃんが私にトマトってあだ名をつけてくれたでしょ。それからね、植物の本を読むようになったんだぁ」


 杉元纏、すぎもい、だからトマトちゃん。めぐちゃんは少し嬉しそうに「ふぅーん」と相づちを打つと、私の隣に座って本を覗きこんだ。


「トマトにも花言葉があるの?」

「あるよ! “完成美”っていうんだって」

「完ペキで、キレイってこと? すごくトマトちゃんっぽいね」


 めぐちゃんはこうやってシレっと褒めてくるから、少し照れちゃう。トマトみたいに赤くなりそうな顔をごまかしたくて、めぐちゃんと一緒に本を読みはじめた。


「ほ、他にもね、色々あるんだよ。カボチャは“広大”」

「北海道とかで作ってるもんね」

「うん、カボチャに似合ってるね」


「ほうれん草は“健康”」

「たしかに、葉っぱも食べないと健康になれないもんね」

「がんばって食べないとだね」


「ゴボウは“いじめないで”……」

「ゴボウ、誰かにいじめられちゃったのかな……。かわいそう」

「いじめちゃダメだよね」

「うん」


「エリンギは“宇宙”」

「宇宙?」

「宇宙」

「なんで宇宙なんだろう……」

「宇宙人みたいだから……?」

「エリンギ星人!」

「エリンギ星人!」


「玉ねぎは“不死”」

「玉ねぎって死なないんだ」

「つよいね」


 二人で読み進めていると、ビックリするものを見つけた。


「ピーマンは……、“海の恵み”!」

「うみのめぐみ!? わたしだー!」


 めぐちゃんの名前は海野恵ちゃん。ピーマンの花言葉と一緒! すごい偶然だ!


「じゃあさ、めぐちゃんは、ピーマンちゃんってこと?」

「そうだね! わたしたち二人ともお野菜だ!」


 仲良しのお友だちとおそろいになれて嬉しい! でも二人ではしゃいでいたら、司書さんに「静かにね」って言われちゃった。だからピーマンちゃんとくっついて、小さな声でお話する。


「こういうのね、運命っていうんだって。お兄ちゃんが言ってた」

「運命……! なんだかすごいね!」


 二人でこそこそ笑いあう。ぽかぽかの日なたも、二人だともっとあったかい。


 私のことを完ペキでキレイって褒めてくれたピーマンちゃんに、いつかステキな言葉でお返しができたらいいな。「ピーマンちゃんは広くてキレイで楽しい海みたいだね」って言えるかな。本当に頬っぺたがトマトになっちゃいそう!



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