僕の先輩は……
――翌日。
「え、鎧武者に会ったんですか!?」
「声が大きい」
ぎょっとして、思わず声を出したせいで怒られた。
いや、大声出した僕も悪いかもしれないけど、先輩も気を付ける的なことは言ってたはずだ。
「ヤバかったら逃げるとは言ったけど、対処しないとは言ってないし、話し合いで何とかなったからね。もう現れないよ」
「いや、確かに先輩なら大丈夫なんでしょうが、でも……」
どれだけ先輩が強いことを分かっていても、何だか納得できない自分がいる。
「心配してくれてありがとうね。でも私は、そう簡単にやられないし、やれないから」
――そうじゃなきゃ、君を助けたりできないでしょ?
そう言われては、何も言えなくなってしまう。
現状、
鎧武者のような話を聞く度に、何か出来ないかと思っては、何も出来ないと落ち込むことがある。
もし、そのせいで先輩が大怪我を負ったら、目も当てられないというのに。
「君は何も気にしなくていいからね。君みたいなのが普通で、私みたいなのが異端なんだから」
「……そういう言い方は止めてください」
先輩が居てくれたから、僕は助かって、こうしてここにいるのだ。
もし、先輩がいなかったらと考えると、怖くて仕方がない。
「あの時、先輩が助けてくれたから、今もこうして居られるんです。あの時、あの場所で、です。だから――」
「ありがとうね」
定期的に伝えてはいるが、ちゃんと伝わっているのかどうかは分からない。
「でも、『桐嶋』である限り、私がやるべきことは変わらないから」
そう告げた先輩は、どこか遠くを見つめていた。
先輩にとっては、役目の一つかもしれないが、僕にとっては、命を繋ぐか失うかという一つの分岐点だったのだ。
だからこそ――
「――
言葉を続けようとすれば、副会長が来た。
今回もまた何か言いに来たんだろうか。
「おや、副会長。どうしたの?」
何も無さげに、先輩が返す。
「いや、少し話したいことがあって」
副会長がちらっとこちらを見た気がしたので、おそらく僕のいないところで話したいことでもあるんだろう。
「じゃあ、先に行ってますね」
「ん、私も後で行くから」
「はい」
そんな空気を読んだやり取りを終えて、手芸部の部室へと向かう。
副会長の用件は分からないけど、おそらく部室関係の事だろう。
内容次第では教えてくれるかもしれないので、今は大人しく待つことにしよう。
☆★☆
「それで、何のご用かな。副会長」
もし、用件があるのだとすれば、昨日の事だろう。
「その、昨日の件だが、ちゃんと礼を言えてなかったと思ってな」
「何だ、そんなことか」
お礼なんて必要ないのにとばかりに千沙子が告げれば、「そうはいかない」と副会長は反論する。
「あの時、桐嶋が来てくれなかったら、最悪死んでたかもしれないしな」
だから、礼をしに来たのだと、副会長は告げる。
だが、千沙子としては、あの場に居合わせたのが副会長であろうとなかろうと介入はしていただろうから、結果としては変わらなかったりする。
「別に……あの場所にいたのが、たまたま君であっただけだから」
「だとしても、礼を言えるのなら、言っておきたい。こうして、言える相手が分かってるんだからな」
真面目に告げる副会長に、こっちが受けとるまで言ってくるんだろうと判断した千沙子は溜め息混じりに「分かった、分かった」と返す。
「君が感謝してるのは分かった。だから、何度も言わなくていい」
宥めるように告げるが、正直、面倒くさくなったのが本音である。
「分かった。本当は他にも聞きたいこともあったんだが、今は時間が無いからな」
「部室の事なら前と一緒だから」
おそらく彼の聞きたいことというのは、昨日の件だろう。
もちろん千沙子としては答える気はないので、部室の件ではぐらかす。
「それはそれ、これはこれだ。聞きたいのは部室の件じゃなくて、昨日の事だ」
「はぁ……」
「一体、どういうことなのか。今度聞かせてもらうからな」
そう告げると、本当に時間が無かったのか、副会長は立ち去っていった。
「面倒くさいなぁ」
皐月のように遭遇頻度が高く、行動時間が重なる人に話しても問題なさそうならともかく、副会長のように頻度が低い上に、行動時間もバラバラな人に話すのは千沙子としては避けたかった。
「これは相談、かなぁ」
千沙子が避け続けた結果、皐月の方に矛先が向いても困る。
だったら、先に話して、答え方を決めておいた方が良いに決まってる。
そんなこともあってか、このあと相談を持ちかけられた皐月が顔を引きつらせるまで、そう時間は掛からなかった。
人形たちは踊る~オカルト研究会は人形と舞う~ 夕闇 夜桜 @11011700
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