其ノ十六 八方塞がり

 ああ、もういっその事、わたくし自身が来年度の大奥(PTA)取締方とりしまりがた(本部役員)に名乗り出てしまおうか。それならば自分の伝手つてで必ずお一人、と言う御吟味方ごぎんみがた(選出委員)お役付きのお割り当て(ノルマ)も果たす事が叶いましょう。安子様はぼんやりした脳裏で、思いもかけずこの様な弱気な事をお考えになりました。


 いいえ、ただでさえ毎日朝から気分が重く、不吉な念慮ねんりょと共に目覚め、体も棒の様で思う様には動かない気鬱きうつな状態で、その上乳飲ちのみ子と数え四つ(3歳)と七つの、三人のお子達の面倒を見ながら、夫は育児への理解が無く、ご協力を仰ぐ事も難しいと言う状況のもと、大奥(PTA)取締方とりしまりがた(本部役員)などと言う重きお勤めを、一年間もの長きに渡り、今の私がまっとう出来るものとは到底思えない、安子様はそう思われ、もう八方塞はっぽうふさがりのご状況になられておりました。


 安子様は身も世も無いご様子で、この冷たい雨の中、宗次郎そうじろう様を背中におぶって、ただ途方に暮れながら歩いて居られると、気が付けば川沿いの丘の上に有る寺子屋の門前に辿り着かれていらっしゃいました。


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