其ノ十 肩

「ああ、分かったよ。十字路を曲がって三軒目の牧野さんの所だね。そうさ、小さいお子が居ちゃあ、お産には足手纏あしでまといだからね。あたしに任せな。」


 頭を手拭いでほっかむりにした中背ちゅうぜいのご婦人が、胸を叩いてこう仰ると、

「さあ、お子達こたち。あんたのお母様はこれから、お産、って言う大事な大事なお勤めが有るんだ。預け先で良い子にして居られるね。」


 太郎君たろうぎみ中背ちゅうぜいのご婦人に向かってこっくりと頷いて、その方の差し出した右手を握り返すと、花子様の背を押し、その御婦人のもう一方の手を握るように導かれました。


「さあ、御新造ごしんぞうさん、産屋うぶやの方に戻るよ。肩を貸すから、ゆーっくり進むんだよ。今は? 陣痛と陣痛の間かい?」

 恰幅の良いご婦人が、出産の御経験者らしくそう仰ると、安子様はその方に力無く頷き返し、ご婦人の肉付きの良い頼もしい肩に、右手を回されたので御座います。


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