其ノ七 七日

「お義母かあ様は、最初の太郎のお産の時も、次の花子のお産の時も、生まれたら直ぐに駆け付けて下すって……。それは有難い事なのですが。」


 安子様は語りながら、数年前の辛い思い出を具体的に思い起こされた様で、一度ぐっと下唇を噛んでから、こうお話を続けられました。


「なんでも、お義母かあ様のお話では、御母御おははごは子を産み落としてから七日間は、横になると頭に血が上るから一睡もしてはいけない、と仰せられまして。

 産後は血の道(ホルモンバランス)が崩れて、乳も張り、体がしんどいにも関わらず、横でお義母かあ様が、私が眠ってしまわぬ様に七日間ずっと見張って居られて、結局一度も横になることも眠る事も許されず、その後しばらくは体の具合も悪く、家事も手に付かぬ程、気鬱きうつになってしまったので御座います。」


 そのお話を聞いた初島はつしま様は驚いて、

「まあ、その様なおいたわしい事が。その時分、私は太郎君たろうぎみのお世話で慌ただしく、お気付き申し上げる事が出来ませず、誠に申し訳御座いませんでした。

 七日間眠ってはいけない……、確かにその様な迷信を、固く信じて疑わないご老人もまだいらっしゃるとは聞き知っておりましたが、奥方様おくがたさまがまあ、そうで御座いましたとは。」


 初島はつしま様はお優しい方なので、安子様が産後眠ってお体を休める事も叶わず、さぞやお辛くしんどかった事でしょうと、心から胸をお痛めになりました。



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