其ノ六 産み月

 それから五日後の事に御座います。安子様の義母ぎぼ奥方様おくがたさまの所にお仕えの初島はつしま様が、安子様の産み月が近いと言う事で、屋敷に御様子を見に訪ねて下さりました。


「さて、御産気付ごさんけづかれましたら、前の花子様の御出産の時に太郎君たろうぎみをお預かりしたのと同様、わたくしどもで太郎君たろうぎみと花子様をお預かり致しますね。」

 と初島はつしま様が仰ると、

「誠にお手数をお掛け致します。うちの主人は育児の事はからきしなもので、預かって頂けると本当に助かります。」

 と仰って、安子様は初島はつしま様に深々と頭をお下げになられました。


「頭をお上げになって下さいませ。御出産は、おなごにとって命懸けの所業。お命を落とされる母子ぼしとて少なくは有りません。御陣痛が来ましたら、三番目のお子を無事にお産みになる事だけをお考えになって下さいませ。」

 と、初島はつしま様は仰いました。


 安子様はその言葉に深くお頷きになられると、

「そうですね。太郎と花子を産む時も、言葉に出来ぬ程、お産はそれぞれに厳しいもので御座いました。産む時だけでなく、お産の後も……。」


 安子様は、何か思い出したくもない事でもお有りなのか、目をおつむりになり、唇を一度固く引き結んでから、ようやっとお口を開かれました。


「それで、初島はつしま様。お義母かあ様の事なのですけれども……。」


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