其ノ四 賜物

優次郎ゆうじろう、おゆうねえ……。」


 ご夫君ふくん煙管きせるを傾けて煙をくゆらせながら、少し考えていらっしゃるご様子でした。


 思えばこの御妊娠中、安子様には様々な出来事が御座いました。先月の小火ぼや騒ぎの一件で、皆様に色々とお助け頂いた事だけでなく、春、吹き矢(くじ引き)に当たって御吟味方ごぎんみがたのお役に就いてしまったご自分を、常盤井ときわい様が何くれとなく助けてお励まし下さったり、初夏には青い梅を誤食した花子様を、お義母かあ様の所のお女中の初島はつしま様が、赤鬼あかおに先生の所に運んで下さり事なきを得た事も。


 兎にも角にも、皆さまの優しさと支えが無ければ、幼い子供二人を一人手ひとりで(ワンオペ)で育てながら、家事も大奥(PTA)のお勤めもこなしつつ、どうにか無事で、この十月とつきの産み月を迎える事は出来なかったかも知れない。そう、このお腹のお子は、助けてくださった皆様の優しさの賜物たまものに違いない。


 だから私はこの子の御名おなには是非、「優」の文字を入れたい、安子様はそのように思われたので御座います。


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