其ノニ 山茶花

 お庭では山茶花さざんかの木の艶々の葉の隙間から、紅鶸べにひわ色の小さな花々が顔を出し、大変可愛らしい風情で御座います。安子様が穏やかな御表情で縁側から見守られる中、花子様は小菊摘み、太郎君たろうぎみは門からの飛び石を、けんけんぱで飛んで遊んでおりました。


 本日は土曜でおもて(会社)がお休みで、ご自宅ににいらした御夫君ごふくんは、居間の煙草盆たばこぼんから煙管きせるを取り出し火を点けると、それを片手に縁側にお立ちになり、お庭を眺めていらっしゃいました。


「安子、体調の方はどうだ?」

 この様な穏やかな休日、御夫君ごふくんのいつになく優しいお声がけに嬉しくなった安子様は、少し甘えた口調で、ご自身の十月とつきの大きなお腹を優しくさすりながら、御夫君ごふくんにこの様にお話しになりました。


「はい、お陰様でこのところ体調は順調の様で、お子も毎日元気に私のお腹を蹴っておりますわ。

 ねえ、ところであなた、このお子のお名前のことですけれど……。」



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