其ノ八 血圧

「大奥(PTA)って言ったって、夜は足元も覚束おぼつかねえし、夜盗が出るかも知れない。そんな時分に、ましてや妊婦が子供らをほっぽらかして、お集まりも何も無えだろう。」

 赤鬼あかおに先生が呆れた口調でぼやくと、すかさず太郎君たろうぎみが、真っ直ぐな瞳でこう仰りました。

「いいえ、お母様は私達をほっぽらかしてなど居ません。お父様に私と花子をお頼みになって出立しゅったつなさったのです。」


「ほう?」


「ただ、お父様は早々そうそうにぐっすりと眠り込んでしまい、起こしても全然お起きにならないので、仕方なく私が花子を外のかわやに連れて行ったところ、こんな事になってしまって。」

 太郎君たろうぎみは、殆ど涙声になって、一生懸命にこうお話されました。


 それを聞いた赤鬼あかおに先生は、血圧が上がったのか、額や眼窩を真っ赤にして怒りの表情を露わにされました。


「あんの牧野の小倅こせがれめ、今度会ったらただじゃあ置かねえ。」


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