其ノ七 外傷

「倒れた時分、見ていた者は居るかい?」

 赤鬼あかおに先生がお尋ねになると、

「はい。私が。」

 と、太郎君たろうぎみがお答えになりました。


「倒れる時、何かに頭をぶつけたりはして居ないね?」

 赤鬼あかおに先生の言葉に太郎君たろうぎみは、

「いいえ。その場に足から崩れるようにお倒れになりました。」

 とお答えになりました。


「外傷は無し、か。後はこのまま静かに寝かせて置いて様子を見るしか無さそうだな。おけい、予断は許さない状況だ。四半時しはんとき(30分)ごとに患者さんの脈を取り、赤ん坊の心音を聞いて報告しなさい。」

 赤鬼あかおに先生は、御自分の娘であり看病中間かんびょうちゅうげん(看護師)の常磐井ときわい様に指示を出されました。


「花ちゃんはもうおねむね。お布団を敷きましょう。太郎ちゃんも、もう眠った方が。」

 常磐井ときわい様は安子様のお子様達を気遣われました。

 太郎君たろうぎみはお母様が万が一、もう二度と目をお覚ましにならなかったらどうしよう、と心配で心配で胸が潰れそうになっており、眠るどころでは無いのか、ただ黙って首を左右に振るのみでした。


「しかし、何でまた幼い子供の居る女子おなごらが、夜中に雁首揃えて出歩いて居たんだい?」

 赤鬼あかおに先生が呆れた口調で呟くと、

「寺子屋の大奥(PTA)のお集まりだったので御座います。」

 おりんさんがそうお答えになりました。

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