其ノ六 触診

「どれどれ……。」

 赤鬼あかおに先生は、いつに無く険しい眼差しで、安子様の脈を取ったり、目の瞳孔どうこうや御心拍を確認なさいました。


 診察室には、看病中間かんびょうちゅうげん(看護師)の常磐井ときわい様と、不安で押しつぶされそうな面持ちの太郎君たろうぎみ、眠ってしまった花子様を腕にお抱きになったおりんさんが、赤鬼あかおに先生の御診察を固唾かたずを呑んで見守っておりました。


 赤鬼あかおに先生は、安子様の御腹部を丁寧に触診なさり、お腹の赤子あかごの様子をお確かめになり、 「とらうべ」なる口の開いた木の棒状の聴診器で、赤子あかごの心音を確認されました。

「ああ、動いて居るね。この子は元気なようだ。」


 赤鬼あかおに先生のこの言葉に、常磐井ときわい様、太郎君たろうぎみ、おりんさんは、ひとまずほっと胸を撫で下ろしました。


 赤鬼あかおに先生は続けて、「とらうべ」を安子様の胸に当て、その御心音をお聴きになられると、

「うむ……。問題はお母さんの方だな。」


 赤鬼あかおに先生は険しい御表情を崩さずにそう呟いたので御座います。




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