第七章 試練

其ノ一 視線

 火を出してしまってから消えたこの瞬間まで、自責の念と不安感で押しつぶされそうになっていた太郎君たろうぎみは、身重みおものお母君ははぎみがその場に倒れ込んでしまったのをご覧になり、普段はとてもしっかりとした七つの男子おのこごであるのに、この時ばかりは両目からぽろぽろと涙をお流しになり、力無くその場にへたり込んで仕舞われました。


 その時に御座います。

「牧野様? 牧野安子まきのやすこ様、お邪魔致しますよ?」


 太郎君たろうぎみの耳に、走って来られたのか息を切らしたどなたか大人のお声が飛び込んで参りました。

太郎君たろうぎみ太郎君たろうぎみではないですか? 大丈夫? 花ちゃんは? 花ちゃんはどうして居るの?」

 三丁目の方角に煙が上るのをご覧になり、急ぎ駆け付けて来て下さった常磐井ときわい様が、太郎君たろうぎみに矢継ぎ早にお尋ねになりました。その時太郎君たろうぎみは呆然自失となっておいででしたのでお声が出ず、ただ安子様がお倒れになって居る方向を、涙でいっぱいになった瞳でお示しになるだけで御座いました。


 常磐井ときわい様は、提灯ちょうちんの灯りで太郎君たろうぎみの視線の先を照らし出されました。そこには、青白いお顔をされ、右手でお腹のお子を庇うような姿勢で倒れ込んでいらっしゃる安子様のお姿が映し出されたので御座います。

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