其ノ二十四 御納戸役

「『御芳名_____(御記名之事) 以上』、と。ようやっと、書き上がりましたわ。」

 安子様が満足げに鉄筆てっぴつをお置きになられると、

「あゝ安子様、ついに、遂に書き上げられましたね。まあ、なんと美しいお筆蹟だこと。」

 常磐井ときわい様は書き上がりを御覧になり、目を細めてお褒めになられました。


「凄いじゃないか。此度こたびは難儀な事だったねえ、あたいなんか、この数時間が一週間ぐらいに長く感じちまったぐらいだよ。」


 おりんさんや、其の他の皆様が口々に安子様の御奮闘ぶりをお讃えになると、安子様は御吟味方ごぎんみがたの、御係おかかりとしての結束が強まった事をご実感になり、やりがいをお感じになられました。


「早速、刷りに入ろうじゃ無いか、皆々御準備はいいかい?」

 おりんさんが、先程洋墨ようぼく(インキ)を拭き取って綺麗にした謄写版とうしゃばん(ガリ版)の木枠きわくに手を掛けて刷りの御作業を始めようとなさった、まさにその時に御座います。


御免ごめんなすって。御納戸役おなんどやく(用務員)に御座ります。

  御吟味方ごぎんみがたの皆様に御座いますか。御吟味方取締ごぎんみがたとりしまりのおでん方様かたさまより、先程、御伝言をお預かり致しました。」

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