其ノ六 瓦版

 常磐井ときわい様は安子様にお答えになられます。

「ああ、あの方ね。うちの上の健太郎とあの方の息子さんが、去年同じ組でしてね。おりんさんと言って、火消しの組の若頭わかがしらの妹さんなのですよ。」


「おりんさんと仰るのですね。」

 と安子様が相槌を打たれると、

「賑やかな方よね。居るだけでその場がぱっと明るくなる様な。でもまあ、賑やか過ぎて、『歩く瓦版かわらばん』なんてあだ名も有ったりしますけれど。」

 常磐井ときわい様はそう仰って微笑まれました。

「お噂好きな方では有るけれど、決して悪い御方では御座いませんよ。」


 そんなお話をされながら、安子様と小さい花子様と常磐井ときわい様は、御吟味方ごぎんみがたのお集まりのある御広座敷おひろざしき(多目的室)に辿り着かれました。


「はあ、此度こたびは約束の刻限こくげんに間に合いましたわねえ。」

 と常磐井ときわい様が仰いますと、安子様が、

「ほんに。初顔見世はつかおみせの時は、おでん方様かたさまが大変なおかんむりで。」

 そう言ってお二人で笑い合っていらっしゃると、

「あら、あんたも御吟味方ごぎんみがたなのかい? さっきは済まなかったねえ。」


 安子様と常磐井ときわい様が声のする方に目を向けられますと、さきほどお見掛けしたおりんさんが、安子様の方をご覧になり、ふところにある柘榴ざくろを包んだ懐紙かいしを指差して、それこそ割れた柘榴ざくろのような、快活な笑みを浮かべられたので御座います。

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