其ノ二 雁金草

  安子様は花子様から雁金草かりがねそうの小さな青い花を受け取ると、

「可愛らしいお花ね。でもちょっと面白い香りがするわねえ。」

 などと他愛たあいないお話をして、花子様と笑い合っておりました。


「あ、いけない。もうお天道てんとう様がこんなに高く上がって……。本日はここのはん(午後1時)から、御吟味方ごぎんみがたの御集まりが御座いますのに。」


 安子様は朝の残り物で簡単に昼食をお済ませになられると、花子様を着替えさせ、御自分も割烹着を御脱ぎになり、普段使いの鳶八丈とびはちじょう単衣ひとえに着替えた後、ご自宅を出立しゅったつなさろうと、花子様の為のおぶひもを手に取りほどき始めますと、

「花ちゃんはもうお歩きできるもん!」

 と、花子様が梃子てこでも動かぬ調子でおぶ紐をお嫌がりになりましたので、安子様は観念して花子様に草鞋わらじをお履かせになり、その小さいお手を取って歩き出されたので御座います。

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