其ノ二十四 金鍔

 奥方様おくがたさまくりやに着くと、御茶菓子をお探しになりました。

「ええと、頂きものの取っておきの金鍔きんつばは、こちらだったかしらねえ。あ、そうこれ、これにございます。」


 奥方様おくがたさまは和菓子の金鍔きんつばをお見つけになると、次は菓子切かしぎり(和菓子用フォーク)を探して水屋箪笥みずやだんすの方に行かれました。


菓子切かしぎり(和菓子用フォーク)は、この水屋箪笥みずやだんすの右の抽斗ひきだしに仕舞って有るのでしたね。」

 奥方様おくがたさまは、独り言を言いながら、水屋箪笥みずやだんすの右の抽斗ひきだしをお引きになられました。


「あ、これは!」


 水屋箪笥みずやだんすの右の抽斗ひきだしには、初島はつしま様が盗んだと奥方様おくがたさまが思い込んでいらした、一分銀いちぶぎんが五枚(約12万円)、満額入ったままの朱色の燧袋ひうちぶくろが入っていたのでした。


 ああ、何という事でしょう! この燧袋ひうちぶくろ水屋箪笥みずやだんすの上方の片開かたびらき戸に仕舞ったものとばかり思い込んでおりましたのに、右の抽斗ひきだしの方から出て来るだなんて。わたくしの勘違いで、勝手に癇癪を起こし、初島はつしまにあんなに酷い事を言って暇を出してしまったなどとは。

 いくら侘びても許されるものでは無いかも知れませぬ。ただ、これからも以前の様に初島はつしまにこの家に仕えて貰いたい。ここは、心を尽くして謝罪するより他はない。


 奥方様おくがたさまはそうお思いになると、客間にいらっしゃる初島はつしま様に向かってお声がけをなされました。


初島はつしま初島はつしまこちらへ。くりやの方へ来て頂戴!」



次章に続く。

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