其ノ十七 子守

 安子様の御夫君ごふくんの顔を見るなり、赤鬼あかおに先生は手招きしてこう仰いました。

「おう、牧野のせがれ。まあそこに座れい。いやあ、遊技場ゆうぎじょう(パチンコ屋)で見る時は座ってるから分から無かったが、立ってるのを見るとまあ、でかくなったもんだなあ。わしよりずっと、丈高たけだかいじゃねえか。昔はよう、こんな、こんなに小ちゃかったのによう。」

 赤鬼あかおに先生は話しながら、お座りになっている御自分の胸の辺りを手で示されました。


「先生、本日は、娘が大変お世話になり、ご迷惑をお掛けしました。」

 安子様の御夫君ごふくん赤鬼あかおに先生に頭を下げると、赤鬼あかおに先生は、衝立ついたての方に目をやって、こう仰いました。


「おいおい、わしに謝ってる場合じゃ無いだろう? 先ずは娘さんの様子を見てやんな。」

 赤鬼あかおに先生の言葉を受けて、御夫君ごふくんは、衝立ついたての奥ですやすや眠っている花子様に目を向けられました。

「道中、お孫さんから聞きました。本日は、母が、ちょっと目を離した隙にこんな事になってしまって。」


 安子様の御夫君ごふくんがこう仰ると、赤鬼あかおに先生があきれ顔で畳み掛けます。

「おや? 聞いてた話と随分違うじゃねえか。今日は奥さんが、お子さんらをに預けて出立しゅったつしたって聞いたよ? なんでとっとと置いて遊技場(パチンコ屋)なんかで遊びほうけて居たんだい?」


「それは……。いや、以前に安子から、母の体調が悪いと聞いてはおりましたが、実際訪ねて話して見たら、言う程でも無さそうでしたので、子守ぐらいなら出来るだろうと思って、つい……。」


 それを聞いた赤鬼あかおに先生は、まさに赤鬼のごとく顔を赤くして、目をぎょろりと光らせ、御夫君ごふくんを睨みつけてこう仰りました。

「子守なら、、だと?」


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