其ノ十八 大八車

 常磐井ときわい様は安子様にお尋ねになります。

「そなた、もしやお腹にお子が居られるのでは?」


 安子様はお答えになられます。

「はい。今月で五月いつつきになります。そうそう、常磐井ときわい様にはてっきりもうお話ししていたと思い込んで居たけれど、まだきちんとお話しできて居りませんでしたね。」


 先程お二人が黙々と石をお集めになったお陰で、小石だらけだった馬場ばば(駐輪場)が綺麗に片付き、後は隅に寄せてある小石の山をおけに移して、順に定められた場所へ運ぶのみで御座いました。その御作業をよっはん(午前11時)迄に終わらせ、次の御陣ごじん(テント)張作業に移らなくてはなりません。


「まあ、やはりそうでしたか。これではそなたに石の入ったおけなど持たせる訳には参りませんね」

 常磐井ときわい様が心配して仰られると安子様は、

「平素より花子をおぶって水汲みや薪運びなどもわたくし一人でしておりますもの、二人で運ぶならば、これぐらい平気に御座います。これしきの事でを上げていたら、主婦などとても勤まりませんわ。それに、今は悪阻つわりも落ち着いて、先日いぬの日祝いも済ませ、体調も落ち着いて参りました。」

 と、お笑いになられました。


「駄目駄目、大事な時期には変わりが有りませんよ。そうね、どういたしましょう……。そうそう、きっと何処かに大八車だいはちぐるま(台車)が有るはず。探して借りて参りましょう。」


 常磐井ときわい様は大八車だいはちぐるまを探しに駆け出されました。


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