其ノ十七 小石

 その眉涼やかな若い御師おし様(教師)は、他のお仕事もお忙しいので御座いましょう、御説明を終わられると何処かへ駆け出して行かれました。


 安子様と常磐井ときわい様は、臨時の馬場ばば(駐輪場)へ行き、小石拾いを始められます。ただここは普段は馬場ばば(駐輪場)として使っては居ない上に、なかなかに広い範囲に御座いますゆえ、かなりの大石も御座いまして、拾い集めるだけでも難儀なものにございます。まずは一か所に石を集め、その後三貫(約12kg)ほど入るおけに移し、女手おんなで二人で定められた場所に、よっはん(午前11時)迄に運び終わらなくてはなりません。


 そうこうしているうち、朝からのどんよりとした雲から冷たいにわか雨がぱらぱらと落ちてまいりました。


 安子様は身重みおもの身に御座いますので、前屈みの姿勢で小石を拾われるのも息切れがすることに御座いましたが、生来せいらい我慢強いお方に御座います。愚痴の一つもこぼされず、半刻はんとき(約一時間)ほどただ黙々と、石を集める御作業を続けておられました。


 ただ、やはりどうしてもお体のご負担が面立おもだちに現れておしまいになるようで、常磐井ときわい様も、安子様の息が上がり、青白い顔色でいらっしゃることにお気づきになられました。


「以前よりもしやとは思って居りましたが、安子様、やはりそなた……。」

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