第三章 鷹狩り

其ノ一 水無月

 御吟味方ごぎんみがたのお役決めから一月ひとつき以上経ちましたでしょうか。梅雨の僅かな晴れ間、五月晴れの本日、暑くも寒くも無く外出にはちょうど良いお天気に御座います。


 安子様は本日、旦那様のお母様でいらっしゃいます、御近所にお住まいの牧野家の奥方様おくがたさま宅をご訪問される事になっております。ご自宅をお出になる時分、ご自分のお御足みあしで歩ける歩けると張り切っておられた数え三つ(2歳)の花子様は、二、三十歩歩いた辺りで、お母様、おんぶおんぶとねだられまして、やはりおぶひもの出番となり、安子様は花子様を背に、道をお急ぎになられました。


 旦那様のお話では、何でも奥方様は、先ごろお女中と折が合わず辞めさせたばかりとの事で、本日は安子様に御様子を見て来る様、お命じになったので御座います。


 安子様の知る奥方様は、武家のおなごの習いとして、いつも背筋をぴいんと伸ばし矍鑠かくしゃくとされ、御感情を表に出さず、穏やかなれどてきぱきとお女中方を取り仕切る、頼もしいお方であった筈にございますのに、此度こたび長年奉公しておりましたお女中を辞めさせるとは一体、どう言ったご事情が有るので御座いましょう。

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