其ノ十三 びら簪

 大典侍おおすけ様がうやうやしくふところから取り出されましたのは、見事な銘柄物めいがらもの(ブランド物)の筥迫はこせこ(ハンドバッグ)に御座いまして、押絵細工おしえざいくで蝶の柄を施し、普通の筥迫はこせこの房であれば、糸をって束ねたふさがほとんどで御座いますのに、こちらの筥迫はこせこの房は、豪奢な銀のびらびらかんざしが六寸(約18cm)もの長さで片側に贅沢にあしらわれていらっしゃいます。その房が、近ごろ流行の御所解ごしょどき小袖こそでに大変映えておいででした。


大典侍おおすけどの、如何いかがかしら? 私が御吟味方ごぎんみがた(選出委員)取締とりしまり(委員長)となり、そなたが取締御後見とりしまりごこうけん(副委員長)となられると言うのは。」


 おでん方様かたさま大典侍おおすけ様をお誘いになられます。おでん方様かたさま大典侍おおすけ様は元よりお知り合いであったご様子で、ご自分を名指して共に、と誘われた大典侍おおすけ様は満更でもないと言ったご様子で、豪華な筥迫はこせこを傾けて銀の房をじゃらつかせながら、こうお答えになられました。


「あら、おでん方様かたさま御自おんみずからのお誘いを頂けるとは、まことに光栄な事に御座いますわ。」

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